研究課題
近年の宇宙論的超精密観測により,現在の宇宙の加速膨張が明らかにされた。本研究課題では,長距離で一般相対性理論を拡張する方法により,この現象を説明することを目的とする本研究の成果により,重力の量子化を含めた重力の普遍的性質の理解の手がかりが得られる可能性があることである。令和3年度の研究実績は下記のようにまとめられる。(1)f(R)重力理論において,その理論的性質をより明らかにするするため,静的な円筒対称性および平面対称性を持つそれぞれの場合について,ネーター対称性を用いて重力場の方程式を解析した。特に,理論が曲率Rの冪乗で表される場合,物質場が存在する場合と存在しない場合に分けて重力場の方程式の新しい解を導出した。さらに,それぞれの場合の一般相対性理論の極限の振る舞いを詳細に調べた。(2)f(R)重力理論における初期宇宙でのインフレーションを考察した。特に,超重力理論における11次元多様体に3次元多様体を付加することにより,量子異常性を持たないより現実的な作用積分を構築した。この理論モデルにおいて,インフレーション宇宙が実現され,観測と整合する宇宙初期の温度揺らぎに対する原始重力波の比)が得られることを示した。(3)f(R)重力理論の研究と並行して,その他の重力理論における宇宙論および宇宙物理学の研究も行った。特に,一般相対性理論における特別な状態方程式を持つ時空での物質の密度揺らぎの成長と宇宙論的パラメータの考察およびブラックホールを中心に持つ銀河の性質,拡張重力理論におけるブラックホール熱力学,円筒対称性を持つブラックホールに相当する重力的天体の形成,コンパクト天体の準性的進化過程,拡散性を持つ自己重力系の動的振る舞い,非線形性を持つ電磁気学におけるブラックホール解,熱的な揺らぎのブラックホール解への影響等を研究した。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度の研究計画では,インフレーションと現在の宇宙の加速膨張を統一的に実現し,現実的な重力理論として必要な条件を満たすより完成度の高いf(R)重力理論模型を構築することを目標にして研究を遂行した。結果として,観測と整合するインフレーションを実現し,量子異常性を持たないより現実的なf(R)重力理論モデルを構築した。また,f(R)重力理論の理論的性質をより明らかにするするため,対称性の高い時空での重力場の方程式を解析した。加えて,その他の拡張重力理論における宇宙論および宇宙物理学を研究することにより,f(R)重力理論の特性をより深く考察した。上記の研究成果は,本研究課題の目的を達成するために資する内容であるため,現在までの研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
本研究課題の目標は,初期宇宙でのインフレーションと現在の宇宙の加速膨張機構,現在の宇宙の三大物質組成である暗黒エネルギー・暗黒物質・バリオン,さらには宇宙磁場と初期宇宙からの原始重力波の起源をf(R)重力理論において統一的に解明することである。そして宇宙・物質・時空を支配する普遍的法則を明らかにし,宇宙創生期から現在に至るまでの総合的な宇宙進化学の理論的基盤を確立することを目指す。今後の推進方策として,第一に,インフレーションと現在の宇宙の加速膨張を統一的に説明し得るさらにより現実的なf(R)重力理論モデルを構築する。そのモデルにおいて,暗黒物質の生成と再加熱過程,輻射優勢期・物質優勢期を再現し,物質の密度揺らぎに対する観測的制限を導出する。暗黒物質の自然な候補として,f(R)重力理論を共形変換によってスカラー=テンソル理論の形に書き換えた際に現れる有限の質量を持つスカラー粒子を研究する。この粒子はインフレーション中に生成され,その質量は曲率依存性を持つ。この曲率依存性により,宇宙の進化につれて曲率が小さくなることに伴い,インフレーション期とその後での質量差に相当するエネルギーが輻射として解放され,再加熱過程が実現される可能性がある。第二に,ねじれた構造をもつ大域的磁場からの宇宙のバリオン数生成と初期宇宙での重力波の起源を研究する。重力場との結合による電磁場の共形不変性の破れに起因して大域的磁場が生成され,それに伴って重力波が発生し,磁気へリシティが生まれる。この磁気へリシティが量子異常効果を通じてバリオン数に転化されるシナリオを構築する。磁気ヘリシティは宇宙マイクロ波背景輻射の偏光に影響を及ぼし,近い将来に観測される可能性がある。これらの観測データを用いて磁気ヘリシティのスペクトルに対する制限を求め,構築したシナリオの現実性を検証する。
令和3年度は,感染症の国内外での拡大に伴う世界的パンデミックにより,国内学会や国際会議がオンライン開催となったため,旅費の支出が発生しなかったため,次年度使用額が生じました。令和4年度以降は,感染症の拡大が減少し,国内学会や国際会議が対面での現地開催になりました場合には,積極的に参加することにより,研究費を使用して参ります。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 13件、 査読あり 13件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 10件、 招待講演 7件) 備考 (2件)
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