研究課題
本研究課題では,長距離スケールで一般相対性理論を拡張する方法により,現在の宇宙の加速膨張機構を解明することを目的とする.本研究の成果により,量子重力の普遍的性質を探る手だてが得られる可能性がある.令和4年度の研究実績は下記のようにまとめられる.(1) スカラー曲率および高次曲率項であるガウス=ボンネ不変量と電磁場が結合する場合を考察し,電磁場の共形不変性の破れを通じて電磁場の量子揺らぎが生成される過程を詳細に解析した.特に,量子揺らぎを起源とする原始磁場がねじれた構造(磁気ヘリシティ)をもつ場合,量子異常効果を通じて生成されるバリオン数密度を求めた.その結果,観測と整合的な強度の宇宙磁場とバリオン非対称の値が生成され得る可能性を明らかにした.(2)暗黒エネルギーと暗黒物質の状態方程式は互いに異なるため,両者は異なる起源をもつと考えられる.ところが,宇宙全体に占める両者の割合は同程度であり,コインシデンス問題と呼ばれている.そこで,流体として振る舞う暗黒物質が暗黒エネルギーと結合する場合を考察し,各種の宇宙論的パラメータの進化を観測と比較した.さらに,暗黒エネルギーの状態方程式とエネルギー条件を詳しく調べ,量子重力と無矛盾であるようで実際は量子重力とは相容れないモデル(スワンプランド予想)に関する考察を行った.(3)ネーター対称性を用いて,f(R)重力理論における円筒対称性や平面対称性をもつ解を求めた.加えて,多様な拡張重力理論における宇宙物理学の理論的研究を遂行した.特に,物質の密度揺らぎの成長,ブラックホール解の量子論的トンネル効果およびブラックホール熱力学の解析,現実的なコンパクト天体の性質,ブラックホールの準周期的振動の解析を通じたブラックホール解への制限,カシミール効果のワームホール解への影響,自己重力系の動的進化,時空の特異点を回避するバウンス解等を研究した.
2: おおむね順調に進展している
令和4年度の研究計画では,初期宇宙でのインフレーションと後期宇宙での加速膨張を統一的に説明でき,再加熱過程,輻射および物質優勢期などの宇宙論的諸過程を実現するより現実的なf(R)重力理論モデルにおいて,磁気ヘリシティと呼ばれるねじれた構造をもつ大域的磁場からの宇宙のバリオン数生成のシナリオの構築を目標にして研究を遂行した。結果として,高次曲率項をもつ重力場と電磁場が結合する重力理論において,電磁場の共形不変性の破れに起因して電磁場の量子揺らぎが生成され,量子揺らぎを起源とする原始磁場が磁気ヘリシティをもつ場合,量子異常効果を通じて,観測と整合する強度の磁場とバリオン数が生成され得る可能性を明らかにした.また,f(R)重力理論を共形変換によって書き換えたスカラー・テンソル理論では,暗黒エネルギーに相当する場と暗黒物質の場が非最小結合する.そこで,暗黒物質が暗黒エネルギーと結合する場合を考察し,宇宙の膨張率であるハッブルパラメータを含む宇宙論的パラメータの理論的進化と観測結果を比較して,暗黒エネルギーの性質を詳しく解析した.さらに,f(R)重力理論の理論的特性をより深く理解するための相補的な研究として,その他の様々な拡張重力理論における宇宙論並びに宇宙物理学を多角的に研究することにより,長距離スケールにおける一般相対性理論からの重力の拡張の性質に関するより詳細な考察を行った.上記の研究成果は,本研究課題の目的達成に向けて十分に資する内容であることから,現在までの研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
本研究課題の目標は,初期宇宙でのインフレーションと現在の宇宙の加速膨張機構,現在の宇宙の三大物質組成である暗黒エネルギー・暗黒物質・バリオン,および宇宙磁場と初期宇宙からの原始重力波の起源をf(R)重力理論に代表される拡張重力理論において統一的に解明することである.加えて,宇宙・物質・時空を支配する普遍的法則を探り,宇宙創生期から現在に至るまでの総合的な宇宙進化学の理論的基盤の確立に寄与することを目指す.今後の推進方策として,第一に,初期宇宙におけるインフレーションと後期宇宙での加速膨張を統一的に実現できる理論的・観測的に矛盾を含まないf(R)重力理論を構築する.特に,PLANCK衛星による宇宙背景放射の観測,および令和3年度に考察したf(R)重力理論での宇宙論的な解の性質から,スカラー曲率の2乗項を含む理論モデルが示唆されている.このような2次(高次)の重力項を含むモデルにおいて,再加熱過程における暗黒物質(共形変換に伴って生成されるスカラー自由度に相当する粒子)の生成と輻射および物質優勢期の宇宙進化を明らかにする.とりわけインフレーションを引き起こすインフラトン場というスカラー場と暗黒物質が結合する場合,非摂動的な過程であるプレヒーティングと呼ばれる時期が現れる.そこでプレヒーティング期でのパラメトリック共鳴を通じた暗黒物質の生成と進化を考察する.第二に,令和4年度に構築したねじれた構造(磁気へリシティ)をもつ大域的磁場からの量子異常効果を通じた宇宙のバリオン数生成のシナリオをより精密化し,このシナリオで生成される原始重力波のスペクトルを解析する.f(R)重力理論では重力場と暗黒物質の候補の場が非最小結合をもつことから,バリオン数と暗黒物質の相互の生成量に関連性が現れ得ることから,宇宙背景放射の宇宙論的複屈折をも考慮しつつ,バリオン数と暗黒物質の生成シナリオを構築する.
令和4年度は,令和3年度に引き続き,感染症の国内外での拡大に伴う世界的パンデミックの影響により,国内学会や国際会議がオンライン開催となりましたことから,主に旅費の支出が発生しなかったため,次年度使用額が発生しました.令和5年度以降は,感染症の拡大が減少するとともに国内外の感染症対策に対する方針の転換により,国内学会や国際会議が対面での現地開催になりました場合には,積極的に参加することにより,研究費を使用して参ります.
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 17件、 査読あり 18件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 12件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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