研究課題/領域番号 |
21K03548
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
成川 達也 東京大学, 宇宙線研究所, 特任助教 (70848598)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 重力波天文学 / 重力波データ解析 / 中性子星 / 高密度状態方程式 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は, (A) 連星中性子星合体の重力波からの状態方程式の情報の抽出, と(B) 強い相互作用の相図の探究である. (A) 重力波波形モデルの開発と実イベント解析への応用を行い, 研究発表や論文として成果をまとめた. ポスト・ニュートニアン (PN) 方式は理論的に堅くかつコンパクト連星合体のインスパイラル期を正確に記述するため, 基本的なモデルとして, 重力波データ解析に使われている. Henry, et al. (2020) によって, PN方式による重力波波形の断熱的潮汐効果パートが更新された. 我々は, この波形を解析に便利なように従来用いられている潮汐変形率パラメータの関数として書き直した. そして, まずはこれを低質量連星ブラックホール合体 (インスパイラル期が長い) の解析に用いた. その結果, はじめてエキゾチックコンパクト天体の潮汐変形率に制限を与えた. ここで, エキゾチックコンパクト天体とはブラックホール代替天体の総称で, 潮汐変形率を用いてそれらの存在を検証することができることが動機である. 先行研究ではエキゾチックコンパクト天体の検証にスピン誘導四重極モーメントのみが用いられていたが, 我々は潮汐変形率も加えた解析を行い, 検証の可能性を広げた. GWTC-2イベントの解析では連星ブラックホール合体仮説がエキゾチックコンパクト天体合体仮説よりも好まれることをベイズ因子解析によって示した. 続いて, この波形を連星中性子星合体の解析に適用し, 現在, 論文提出準備中である. 更新された波形モデルを用いてGW170817とGW190425の再解析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに, 連星中性子星合体の重力波からの状態方程式の情報の抽出に関して, ポスト・ニュートニアン方式による断熱的潮汐変形効果モデル波形を用いた, 実イベント解析を実施している. その研究成果は重力波天文学において重要な貢献となっており, 順調に研究を進めている. 解析に用いる潮汐変形率の波形モデルの導出に成功したことにより, まずは連星ブラックホール合体 (GWTC-2イベントの内でインスパイラル期の長いイベント6イベント) の解析に適用し, エキゾチックコンパクト天体に新しい制限を与えた. その結果は国際会議で発表され, 学術論文として出版された. 続いて, 導出した潮汐変形率の波形モデルを連星中性子星合体 (GW170817とGW190425) の解析に適用し, 断熱潮汐効果からの中性子星の状態方程式モデルの制限をまとめている. 現在, 学術論文として提出する準備をしている. 以上のように本研究課題の進捗状況について, おおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後, 本研究の目的である, 強い相互作用の相図の描像と関連している高密度領域の状態方程式の探究に対して, 以下の研究の推進方策を計画している. (A) (a-1) 階層ベイズ推定解析パイプラインの開発: 複数イベントの情報を組み合わせた状態方程式の制限を導出するため, 階層ベイズ推定を利用した解析パイプラインを開発する. (a-2) 動的な潮汐効果のインパクトの調査: 状態方程式を特徴付ける物理パラメータとして, 断熱的な潮汐効果に加えて, 動的な潮汐効果に注目し, より正確な波形モデルを開発する. 個別のイベントから質量, スピン角運動量, 潮汐変形率, 固有振動数 (動的な潮汐効果による) を推定し, 階層ベイズ推定によって, すべてのイベントに共通する状態方程式モデルを超パラメータとして複数イベントを有効的に組み合わせるコードを開発する. 動的な潮汐効果のインパクトがどのくらいなのかを断熱的な潮汐効果のみの波形モデルと比較し, 区別に必要な信号雑音比とイベント数で積もる. (B) 核物質状態方程式モデルとクォーク物質への相転移を考慮した状態方程式モデルの区別可能性を開発した動的な潮汐効果を考慮した波形モデルを用いて調査する. 階層ベイズ推定による複数の連星中性子星合体イベントからの状態方程式の制限を与える. 強い相互作用の相図の相転移点に対応する状態方程式モデルを区別するためには, 将来イベントがいくつ検出されれることが必要かを予言する. 実イベントが観測された際には, 階層ベイズ法を用いて推定結果を組み合わせることで, 状態方程式の系列 (質量-半径関係に対応する) の情報が得られ, 強い相互作用の相図に対する制限を与えることができると期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は, 新型コロナウイルス (COVID-19) 禍のため, 出張を控えたためと, 研究の進捗により, ノートパソコンの購入を次年度に変更したためである. 本年度以降, 目的達成のために, 以下の経費が必要である. 2021年度に実施予定であった, 波形と階層ベイズ推定のコード開発を2022年度にも引き続き行うため, ノート型パソコン(MacBookPro 14インチ)(24万円)を購入する (大型計算機への接続端末としても使用する). LVKによるO4で検出されたイベントの解析結果の保存用SSD(5万円), 重力波データ解析関連書籍(5万円), 国内共同研究者との打ち合わせのため, 京都大学などに出張し, 対面で議論するための旅費(15万円), 国内学会旅費(15万円), PTEPの論文掲載料(10万円)が必要である. 2022年度に請求する金額は30万円に減るものの, 2021年度からの繰越予算(44万円)もあるため, 研究遂行する上では大きな問題はなく, 研究目的を達成できる. 2023年度: データ解析結果用SSD(3万円), 関連書籍(2万円), 国内学会旅費(15万円), オランダ・ユトレヒト大学の共同研究者を訪問・滞在するための長期訪問滞在費(40万円), 論文掲載料として10万円が必要である.
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