研究課題/領域番号 |
21K03552
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
重森 正樹 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60608256)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | AdS/CFT対応 / TTbar変形 / ホログラフィー |
研究実績の概要 |
本研究では、TTbar変形をAdS/CFT対応の文脈で考察し、CFT側での変形が、ホログラフィック双対であるAdS重力理論側ではどのように実現されるかを、ランダム幾何の方法を用いて明らかにする。特に興味のある研究テーマの1つとして、TTbar変形によりAdS時空における重力理論が非ユニタリになるメカニズムを明らかにするということがある。R3年度は、これに関係して、TTbar変形した理論における相関関数が非ユニタリになる原因を調べるため、TTbar変形した理論において、演算子を挿入したときにその周囲でどのように物理量が振る舞うかを調べた。そして、平坦時空におけるTTbar変形された理論において、時空の原点に演算子を挿入したとき、ストレステンソルの期待値が原点を中心とするある円盤の内部で非物理的な振る舞いを示す(値が複素数になる)ことを導いた。また、この状況がCFTでどのように同等に記述されるかを計量・ストレステンソルの発展方程式を用いて調べ、対応するCFTにおいては、原点を中心とする円盤内で計量が非物理的な振る舞いをすることを導いた。円盤の半径は、TTbar変形のパラメータおよび演算子の次元に依存する。この内側で物理量が非物理的な振る舞いを示す円盤の存在は、Cardy-Doyonらによる、TTbar変形が基本粒子の大きさを有限にすることに対応するという提案と辻褄が合うだけではなく、TTbar変形された理論が非ユニタリになることと密接に関係していると期待され、さらなる解析が望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
R3年度は、TTbar変形した理論における相関関数が非ユニタリになる原因を調べるため、TTbar変形した理論において、演算子を挿入したときにその周囲でどのように物理量が振る舞うかを調べ、ストレステンソルや対応するCFTの計量が非物理的な振る舞いをする領域が存在することを示した。しかしながら、これは特殊な状況であり、一般の場合における計量の変化を、ストレステンソルの生成汎関数であるLiouville作用がどのようにTTbar変形してゆくかを汎関数微分方程式を解析することによって追うという計画は、技術的困難により進捗が滞っている。また、主たる海外研究協力者の異動によりコミュニケーションが困難になっているということも残念ながら進捗を遅くしている一因である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、まず、TTbar変形した理論において演算子を挿入したときにその周囲でどのように物理量が振る舞うかを継続して調べる。これは、特殊な状況ではあるものの、具体的にTTbar変形された理論における非ユニタリ性を調べることを可能にするからである。また、そのような特別な状況だけではなく、一般の場合における計量の変化を、ストレステンソルの生成汎関数であるLiouville作用のTTbar変形を表す汎関数微分方程式を解析することによって調べる、ということも継続して行う。また、少し異なる方向として、TTbar変形を応用した "TTbar-Liouvile理論" を調べることも開始したい。これは、Liouville因子を含むCFTを、Liouville理論の頂点演算子とTTbar演算子を組み合わあせたもので変形するというアイデアである。これは、2つの視点から興味深い。まず、これを弦理論のworldsheet CFTと考えると、massive modeの凝縮に対応する。massive modeの凝縮は余り調べられていないが、このTTbar-Liouville変形はTTbar変形の可積分性のために可解である可能性があり、massive modeの凝縮を深く調べることに役立つ可能性がある。また、TTbar-Liouvilleと類似した変形にsin-Liouville模型があり、これはいわゆるcigar CFT(ブラックホール時空中の弦理論を表すCFT)との間に双対性(FZZ双対性)を持つことが知られている。TTbar-Liouville模型にも同様の双対性があれば、宇宙論的な時空における弦理論を調べるための枠組みを与える可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により出張や講師招聘が計画通りに行えなかったため。R4年度以降はコロナ禍による出張の規制が緩和されると期待されるため、出張や講師招聘の財源として使用する。
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