本研究においては、TTbar変形をAdS/CFT対応の文脈で考察し、CFT側での変形が、ホログラフィック双対であるAdS重力理論側ではどのように実現されるかを解明することを目標とする。特に興味のある問題として、TTbar変形によりAdS空間における重力理論が非ユニタリになるメカニズムを明らかにするということがある。昨年度に引き続き、R5年度は、これと関係して、TTbar変形した理論における相関関数が非ユニタリになる原因を調べるため、TTbar変形した理論において、一般的な演算子を挿入したときにどのように空間が変化しどのような相関関数を与えるかを解析した。 変形されていない空間上のTTbar変形されたCFTは、変形された空間上の変形されていないCFTと等価であることが知られており、それらの間の関係はダイナミカルな座標変換であることが知られている。ダイナミカルな座標変換とは変形された空間上の座標が場の演算子の関数になるということである。我々はこのダイナミカルな座標変換を(ヤコビアンも含めて)非常に額面通りに用いることにより物質場やストレステンソルの相関関数を計算し、知られている結果を摂動的に再現できることを示した。この手法は直感的であり、さらなるフォーマルな発展の土台となると期待される。さらに、このダイナミカルな座標変換が或る種のダブルスケーリング極限で古典的になることを用い、物質場の相関関数のいわゆる「leading log」の寄与を計算し、Cardyの結果を再現することを示した。これはこの手法の正当性と効率性のさらなる証拠である。また、我々は変形された空間が物質場の演算子を挿入した点の周りに有限範囲でカットオフされていると解釈できることも具体的に示した。これはCardy-Doyonの主張とコンシステントであり、相関関数が非ユニタリになることと密接に関係していると考えられる。
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