研究課題/領域番号 |
21K03553
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
滑川 裕介 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (00377946)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 原子核(理論) |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、格子量子色力学計算を用いた高密度領域における物質の性質解明である。本年度は、複素ランジュバン法による有限密度における格子量子色力学計算に加え、世界体積ハイブリッドモンテカルロ法・経路最適化法の開発を進めた。 まず、計算しやすい4フレーバーのスタッガード型フェルミオンを用いて複素ランジュバン法による期待値評価と経路積分値が一致する領域の有無を調べ、低温高密度にて条件を満たす領域が存在することを示した。この結果を踏まえ、次にウィルソン型フェルミオンを用いて、上記の条件を満たす領域のフレーバー数依存性を調べた。現実世界である2+1フレーバーの場合でも、条件を満たす領域が低温高密度に存在することを確認できた。さらに、格子摂動論により格子上でのカラー超伝導相の性質を調べると共に、カラー超伝導オーダーパラメータの格子計算を行い、大ゆらぎを確認した。 また、複素ランジュバン法の適用可能領域外でも有効な手法として、世界体積ハイブリッドモンテカルロ法および経路最適化法の開発を進めた。世界体積ハイブリッドモンテカルロ法は分配関数の積分経路を複素化し、積分面の軌跡上でハイブリッドモンテカルロ法を実行することにより符号問題およびエルゴード性問題を解消する手法である。本研究により、世界体積ハイブリッドモンテカルロ法特有の統計解析法を確立し、その証明を与えた。また、経路最適化法は同じく分配関数の積分経路を複素化し、機械学習により符号問題を軽減する積分経路を決定するアルゴリズムである。ただし、単純な理論模型では上手く機能したが、ゲージ自由度が有る系では符号問題が改善しないという困難が生じた。本研究で、ゲージ不変量を用いたニューラルネットワークを新たに提案した。実際に新提案したニューラルネットワークを用いた機械学習により、複素結合定数を持つU(1)ゲージ理論にて符号問題が改善できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複素ランジュバン法による有限密度における格子量子色力学計算を実行でき、複素ランジュバン法が適用可能な領域を非摂動的シミュレーションにより決定できた。また、相補的手法である世界体積ハイブリッドモンテカルロ法においても、特有の統計解析法を確立および証明に成功した。経路最適化法がゲージ自由度が有る系で上手く機能しないという困難は当初予期していなかったが、新たに提案したゲージ不変量を用いたニューラルネットワークにより困難を解消できた。
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今後の研究の推進方策 |
高密度領域における格子量子色力学計算を進め、相構造の特定に挑む。具体的には、カイラル凝縮・ポリヤコフループといった物理量計算に加えカラー超伝導オーダーパラメータの非摂動計算を進め、温度および密度依存性を決定する。さらに、空間体積を変化させ、有限サイズスケーリングにより相転移の有無および各相の領域を確定する。また、世界体積ハイブリッドモンテカルロ法および経路最適化法の量子色力学への適用を試み、手法の検証および必要に応じ各手法を改善する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、参加を予定していた国際および国内会議の出張が、コロナウイルスの影響により、延期もしくはキャンセルとなった。次年度の感染状況次第ではあるが、出張旅費としての使用を想定している。
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