研究課題/領域番号 |
21K03555
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
池田 陽一 大阪大学, 感染症総合教育研究拠点, 教授 (90548893)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 格子QCD / ハドロン間相互作用 / エキゾチックハドロン / 深層学習 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
強い相互作用の第一原理計算である格子QCDを用いて、phi中間子-核子系における軌道角運動量S波、スピン2/3に関するハドロン間相互作用の導出を行った。ここでは、pi中間子質量が146MeVの物理点近傍のゲージ配位を利用した。LHC ALICEグループでは、高エネルギーハドロン衝突実験により、phi中間子-核子のスピン平均された相関関数を測定されており、本研究の格子QCDによる相互作用を利用しスピン1/2におけるphi中間子-核子系に束縛状態が存在する可能性が示唆された。 このようにハドロン間相互作用の決定、およびそこから創発する量子状態の研究が、現在活発に行われているが、重イオン衝突実験で報告されたハドロン束縛状態・共鳴状態の候補について、それらの存在を確立させることが重要である。これまでの高エネルギー実験において、新奇なハドロン量子状態が散乱閾値近傍に存在する可能性が示唆されており、本研究では、これらの量子状態決定に機械学習を導入する新しい方法を提案している。今年度の研究において、閾値近傍における散乱振幅の良い近似となる有効レンジ展開を用いて、2核子系における束縛状態と仮想状態を区別する深層学習プログラムを完成させた。量子状態は散乱振幅の複素エネルギー平面上での極の位置で決まるため、散乱理論に忠実に、散乱振幅の解析性を正しく満たす教師データを作成した。これらを元に、散乱実験データへの応用を試み、部分波解析を行った先行研究と高精度で一致することが確かめられた。 さらに、チャームクォークを含むような2中間子間の相互作用の計算に向けてのコード開発を行い、スーパーコンピュータ富岳を用いた計算がスタートさせた。ここでは、テトラクォークの候補であるTccに関する相互作用の計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スーパーコンピュータ「富岳」の一般課題に採択され、物理的クォーク質量を持つゲージ配位の生成が進み、かつ、これまでに生成されて物理点近傍におけるハドロン間相互作用の計算が順調に進んでいる。さらに、有効レンジ展開を用いた閾値近傍での散乱振幅を教師データとする深層学習が高いパフォーマンスを示し、約90%の精度でS波の二核子系のスピン一重項と三重項の散乱断面積データに潜む量子状態の判別を可能とした。これらにより、第一原理計算からハドロン間相互作用を直接求めること、および、LHC ALICEなど高エネルギーハドロン衝突実験に見出される量子状態の分類を可能とし、有機的に理論と実験の連携ができる基盤が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに実験で報告のあったエキゾチックハドロンの候補の多くは、散乱閾値近傍に単チャンネルのハドロン散乱としてだけではなく、チャンネル結合ハドロン散乱におけるピークとして報告されている。今後、LHC ALICEグループのハドロン相関関数データを調べるため、まずS波かつ異なる種類の2粒子系の相関関数の有効模型であるLednicky-Lyuboshitz(LL)公式を用いた、機械学習による量子状態判別の研究を進める。また、格子QCD計算により、LHCbから報告されたテトラクォークの候補であるTccの状態を確定させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
対面型ではなくオンライン型の国際研究研究会が開催されたため、旅費に関して差額が生じた。差額は来年度の旅費に計上する。
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