研究課題/領域番号 |
21K03557
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中尾 憲一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (90263061)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 超コンパクト天体 / ブラックホール / グラバスター / 一般相対論 |
研究実績の概要 |
観測技術の目覚ましい発展によりブラックホール候補天体の詳細な観測的研究が現実のものとなった今、その近傍の物理現象の理論的研究は重要性を増している。ブラックホールはその外部に物理的な影響を一切及ぼさない領域である。それゆえ、我々がブラックホールを直接観測してその存在を確認することはできない。我々が観測できるのは、永遠に重力崩壊を続ける超コンパクト天体か、重力崩壊をやめて静的あるいは定常になった超コンパクト天体とその周りの時空構造である。本研究の目的はその超コンパクト天体近傍の物理的情報をどのように引き出すのかを理論的に明らかにらかにすることである。大きな重力赤方偏移を受けるため、超コンパクト天体近傍の観測は難しいのだが、高速回転している物体の場合には、たとえそれが超コンパクトでも重力赤方偏移が弱くなり、その近傍の観測が原理的に可能になる。それゆえ、本研究では高速回転する超コンパクト天体を重要な対象としている。しかし、重力崩壊過程で起きる量子論的な粒子生成も超コンパクト天体近傍の物理的な状況を反映するので、本年度はその研究を進めた。具体的には、重力崩壊する球対称な星がブラックホールを形成する直前で急激に崩壊を止めて、事象の地平線を持たない静的な星になる場合に注目して量子論的に生成される粒子のエネルギー流速を解析した。この研究には先行研究がある。先行研究では計算の簡素化のために無限に薄い球殻状の質量分布を仮定したが、本研究ではより現実的な一様球対称な質量分布を仮定して解析を進め、先行研究と同様、ブラックホール形成直前の重力崩壊の急激な停止によって爆発的なエネルギー放出が起きることを示し、地平線を持たない超コンパクト天体の形成過程が観測的に確認できる可能性を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で想定されている研究対象は高速回転している超コンパクト天体だが、それに注目する理由は、天体近傍の物理的な情報が重力赤方偏移を受けないために、原理的に観測可能だからである。本研究の最大の目的は超コンパクト天体近傍の物理的情報を観測する術を理論に明らかにすることである。本年度は高速回転していない超コンパクト天体の研究を進めたが、量子論的な粒子生成に注目することによってその近傍の情報を得る術を明らかにした。この意味で概ね順調に研究が進展しているといえる。今年度は超コンパクト天体は物理的にもっともらしいエネルギー条件を満たすものと仮定して解析したが、この研究の拡張として、ブラックホール類似天体として多くの研究者の関心を集めているグラバスターが最終生成天体である場合の解析も進め、極めて興味深い結果を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の予定通り「超高速回転しているコンパクト天体」に注目して研究を進める予定であり、指導している修士課程の大学院生に「超高速回転コンパクト天体 (superspinar) の物理的な性質」をテーマとして与えて共同研究を進めている。Superspinar は Gimon と Horava によって提案された仮想的な天体であり、その周囲の時空構造が Kerr bound を超える Kerr 時空であること以外には、その性質は全く明らかにされていない。それゆえ、先行研究では適当なそれらしい境界条件を満たす天体と仮定して線形安定性が調べられ、「ergosphere instability によって superspinar は我々の宇宙には存在しえない」と結論された。しかし、instability が存在しない境界条件が存在しうることが本研究の研究代表者らによって示されており、今後はその具定例を構成することを目標とする。この具体例の構成は superspinar の物理的な性質を議論する上で極めて重要である。また、superspinar の具体例として高速回転するグラバスターの初期条件を表す拘束条件の解の構成も同時に進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症により、国内外への出張ができなかったため旅費の支出が無かったこと、またセミナーや研究打ち合わせ、情報収集を遠隔で行うことになり、旅費や人件費の支出が無かったために次年度使用額が生じた。今年度は新型コロナ感染症の状況を睨みながら積極的に出張等を行う予定である。
|