研究課題/領域番号 |
21K03558
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤森 俊明 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 助教 (60773398)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リサージェンス理論 / 場の量子論 / 非摂動効果 / リノーマロン |
研究実績の概要 |
2021年度の研究ではリサージェンス理論において長年の問題であるリノーマロン問題に取り組んだ。リサージェンス理論は発散する摂動級数のボレル総和に現れる不定性に対する処方ということができるが、その経路積分による準古典的解釈には解決すべき問題が数多く残されている。いわゆるリノーマロンにまつわる課題は、それに対応する非摂動効果が経路積分における鞍点の寄与として同定することができるかというところにある。そのような中で、いわゆるバイオン解がリノーマロンに対応する鞍点解の候補として提案されているが、その真偽については現時点では未解決である。この問題を解決に向けて2021年度の研究では、ラージN非線形シグマ模型におけるリノーマロン不定性の構造を議論した。特に赤外発散の正則化スケールパラメータとリノーマロン不定性の関係について詳細に調べた。ラージNのO(N)非線形シグマ模型の性質を利用して、ラージN極限における相関関数を厳密なトランス級数の形に書き下すことによって、どのセクターに不定性が含まれているかを検証した。その結果、赤外発散の正則化スケールパラメータが模型の強結合化スケールパラメータΛより大きい場合は不定性が現れないことを確認した。一方で正則化パラメータの方が小さい場合は、それまでの考え方に反して、摂動級数のリノーマロン不定性は非摂動的寄与の不定性のみでは相殺されないということが判明した。それだけではなく、更に高次の非摂動セクターの摂動級数に含まれるボレル不定性を考慮することによってリノーマロン不定性が完全に相殺されることを発見した。この性質はより一般のラージN模型においても示すことができる。研究では、例としてラージNCP^Nシグマ模型においても同様のリノーマロンの構造を持つことを示している。この研究はリノーマロン問題の今後の展開において重要になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は概ね順調に進展したと言える。本研究課題の目的は場の量子論の非摂動的振る舞いを解明するための鍵となると期待されている、「リサージェンス理論」をより発展させ、強結合場の理論の理解を深めることである。2021年度は、「リサージェンス理論」の強結合場の理論への応用の障害とも言える「リノーマロン問題」に焦点を当てて研究を行った。リサージェンス理論は、摂動級数の発散およびそのボレル総和に伴う不定性と非摂動的寄与の不定性の関係を論じるものであるが、QCDや非線形シグマ模型などの漸近的自由性を持った場の理論模型におけるリノーマロンは非摂動的寄与が不明であるということが問題となっている。このリノーマロン問題と呼ばれる長年の未解決問題を解決することが本研究課題の柱の1つである。2021年度の非線形シグマ模型のラージN極限におけるリノーマロン不定性の構造に関する研究はそのような本研究課題の目的に向けて着実な一歩ということができる。リノーマロンに対応する非摂動的寄与をもたらす経路積分における鞍点解が存在するかを明らかにすることが重要であるが、そのためにはまず理論におけるリノーマロン不定性の構造をはっきりと理解しておく必要がある。本研究ではその点に焦点を当てて研究を行い、主にラージN非線形シグマ模型におけるリノーマロンと赤外発散との関係を明らかにした。そによってこれまでの考え方とは異なる新たなリノーマロンの構造に関する知見が得られ、さらなる研究の進展へと繋がっていくと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究で得られた、リサージェンス理論におけるリノーマロンに関する知見を基にして、リノーマロン問題を解決すべく以下のような研究を行う計画である。 2021年度の研究では主にノンコンパクト時空におけるO(N)およびCP^N非線形シグマ模型において研究を行ったが、いわゆる「断熱的連続性」を用いた弱結合領域と強結合領域をつなげることによって、強結合のリサージェンス構造などの物理を調べるというアイディアを実現するために、今後の研究ではZ_Nツイスト境界条件を課したコンパクト化した時空におけるリノーマロン構造を調べる予定である。2021年度の研究で得られた結果を応用して断熱的連続性の議論の有効性をリサージェンス理論およびリノーマロンに観点から調べる。 また別種の理論においてもこれまでにない方のリノーマロンに類似した不定性が見つかっている。特に可積分性を用いた議論から摂動級数を調べることによって新たな構造が調べられている。そのような中で、2次元の非線形シュレーディンガー模型においてそのリサージェンス構造と複素鞍点解の関係を可積分性を利用して解析することでリノーマロン問題の解決へと向けて研究を進展させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で学会および研究会がオンライン開催となり旅費等の経費がかかることがなかった。また同じく新型コロナウィルスの影響で研究者の招聘が困難となり、それに伴う予定のキャンセルのため旅費・謝金・研究のための物品の購入費の支出がなかった。今後は新型コロナウィルスの影響が収まり通常の研究活動へと戻ると仮定して、翌年度請求分と合わせて、国内学会および研究会、国際学会への参加旅費として支出を予定している。さらに研究者の招聘に伴う旅費、専門知識提供に対する謝金、人件費を支出をする予定である。またそれに伴う研究プロジェクト遂行のための物品や図書の購入も予定している。
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