研究課題/領域番号 |
21K03564
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
阿部 喬 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 協力研究員 (70463958)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核構造 / 核子間相関 / 殻模型 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
軽い中性子過剰核におけるスキンやハローを構成する余剰な2個の中性子の間に働く核子相関は双中性子(ダイニュートロン)相関と呼ばれる。このダイニュートロン相関は原子核を構成する中性子と陽子の数がほぼ等しい通常安定核における核子相関と比べ特異な性質を示すことが近年の実験研究や現象論的な模型による理論計算から示唆されている。中性子過剰核においてクラスター構造などの内部構造を仮定することなく原子核を構成する核子の自由度とその間に働く核力に基づく第一原理計算により定量的な観点からこのダイニュートロン相関を議論しその発現機構の検証を行うことが本研究課題の目標である。本研究では特にヘリウム同位体に着目し、閉殻芯を仮定しないモンテカルロ殻模型による第一原理計算手法を採用し、多体計算のインプットとなる核力には、カイラル有効場理論を用いて構築されたDaejeon16核力を用いる。本研究課題初年度に当たる当該年度では、我々の用いる第一原理計算の実現可能性調査としてヘリウム4からネオン20までにわたる4n核の基底状態について原理実証研究を行い軽い核において我々の第一原理計算手法の有用性を示した。さらにこの第一原理手法を用いてダイニュートロン相関と同様に軽い核で発現する特徴的な核子相関であるクラスター相関に着目し、炭素12のHoyle状態におけるαクラスター構造の発現機構の解明を行った。続いて、本研究課題であるダイニュートロン相関に関係する実験・理論研究の情報取集を行いこれまで得られている知見について情報の整理した。また、ヘリウム同位体の基底状態や第一励起状態に関してエネルギーや半径、電磁遷移強度確率など基本的な物理量に関してこれまで得られている計算結果と実験データの比較などを行い、特にヘリウム4,6については現段階で得られている計算結果ですでに定量的に非常によい一致を示していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題研究初年度に当たる当該年度では、本研究課題で用いる第一原理計算手法である閉殻芯を仮定しないモンテカルロ殻模型について、ヘリウム4からネオン20にわたる4n核の基底状態の物理量を対象とし原理実証研究を行った。さらに、ダイニュートロン相関と同様に軽い核で特徴的に現れるクラスター相関について、特に炭素12のHoyle状態に注目して我々の第一原理計算の観点からアルファクラスター構造の発現機構について議論を行った。続いて、当該研究課題の主題であるヘリウム同位体におけるダイニュートロン相関について、これまで行われたきた実験・理論研究の情報収集を行い、現段階で得られている知見について情報を整理した。さらに、このヘリウム同位体におけるダイニュートロン相関について直接議論する前に、まずは、ヘリウム4,6,8,10の基底状態および第一励起状態におけるエネルギー、半径、電磁遷移強度確率などについて現在得られている計算結果と実験データとの比較を行った。両者の比較から、ヘリウム4,6などについては励起状態も含め現段階でも定量的にもよい一致を得られていることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
現段階では模型空間として7主殻、基底数として100基底における計算結果が得られており、ヘリウム4,6に関してはそれらの構造を議論するにはすでに十分ではあるが、一方でヘリウム8,10などより中性子過剰なヘリウム同位体について定量的な観点から議論するにはさらなる計算が必要である。具体的には、同じ7主殻の計算でもより多くの基底数まで計算を行うことにより、その模型空間において収束した解を基底数に関して外挿し精度よく決定することが重要である。さらに、7主殻だけでなくそのほかの模型空間においても同様な計算を行い、模型空間に関して外挿することにより、信頼性の高い第一原理解を得ることにより、ヘリウム8,10についても実験データと定量的な観点から比較できると期待される。このようにして得られた信頼性の高い多体波動関数を用いることにより物体固定座標系における密度分布を描き、これらの同位体で余剰中性子がどのような密度分布を持つか可視化することにより、第一原理計算の観点からダイニュートロン相関の発現機構について議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内納品可能な洋書を発注したが、先方から在庫なしで発注がキャンセルされたため。次年度、改めて発注を行う予定。
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