研究課題/領域番号 |
21K03566
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
阪口 真 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (90382027)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | BRST対称性 / 超弦理論 / 高階スピン / Dirac-Born-Infeld / Dブレーン / 非可換 |
研究実績の概要 |
非可換ゲージ対称性をもつ超対称Dirac-Born-Infeld(非可換DBI)理論は,超弦の非摂動的物理を知る上で重要である。Pure Spinor(PS)形式の超弦理論では,量子論的にも保たれるBRST対称性を使ってD9ブレーン上のDBI方程式が誘導された[Berkovits-Pershin’02]。更に研究代表者はこの解析をDpブレーン上へと一般化し,DBI方程式を誘導した[Hanazawa-Sakaguchi’19]。 当該年度は,非可換ゲージ対称性が誘起される複数枚重なったDpブレーンへと解析を進め,非可換ゲージ場などの背景場と結合したPS形式の開弦のBRST対称性から,背景場の従うDpブレーン上の非可換DBI方程式を誘導した。先行研究[Berkovits-Pershin’02]では非可換化の際に導入される境界フェルミオン場の2次までが議論されていたが,ここでは全次数を含む方程式を誘導し, BRST対称性の整合性も示した。この研究成果は日本物理学会第77回年次大会で発表した。
超弦の無張力極限を記述する高階スピンゲージ理論は,超弦のα’補正をすべて含むと考えられる。また高階スピンゲージ理論のゲージ対称性が自発的に破れた相として超弦が実現されると期待できる。高階スピンゲージ理論であるVasiliev理論はAdS/CFT対応に非自明な例を与え注目されてきた。研究代表者は,BRST-反場形式のマスター方程式の厳密解として,摂動の全次数を含むボソン的高階スピンゲージ理論の作用を構成した[Sakaguchi-Suzuki’20]。 当該年度は,この模型のフェルミオンを含む一般化を行い,さらに反de Sitter時空上へと一般化した。この内容は学術論文[arXiv:2110.04990 [hep-th]]としてまとめ,日本物理学会2021年秋季大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
背景場と結合したPS形式の開弦のBRST対称性から,重なったDpブレーン上のα'補正の全次数を含む非可換DBI方程式を誘導した。特に非可換化のために導入される境界フェルミオン場について,先行研究では2次までだったが,ここでは全次数を含む定式化を与えた。またBRST対称性より境界フェルミオン場のBRST変換が要求されるが,このBRST変換が冪ゼロ性を満たすことを,境界フェルミオン場をDiracスピノールに選ぶことで構成できるゲージ対称性を使って示した。
高階スピンゲージ場の自由場作用に摂動的に相互作用を入れた作用は,BRST-反場形式のマスター方程式を摂動パラメタで展開することで摂動の低次から構成されていた。これに対して研究代表者は,Fronsdalテンソルを構成要素として採用し,BRST-反場形式のマスター方程式を厳密に満たすボソン的高階スピンゲージ場の作用を構成していた。当該年度はこの模型のフェルミオンを含む一般化を行い,さらに反de Sitter時空上へと一般化した。また冪ゼロ性などBRST対称性の整合性も明白にした。一般には発散する摂動級数が収束するとき,質量殻上で自由場に帰着することが新たに分かった。
以上より着実に成果が上がっており概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては,重なったDpブレーン上の非可換DBI方程式を誘導した研究成果を学術論文としてまとめ,さらにDブレーンの束縛系や交差したDブレーン上のDBI理論へと拡張することである。特にD0-D2ブレーン系を調べ,Myers項の同定を目指す。これらを通じて時空計量などの背景場の情報がいかに組み込まれているかなど非可換DBI理論の構造に迫る。またAdS5xS5(5次元反de Sitter時空と5次元球の直積)上のPS形式の超弦理論のBRST対称性から,AdS5xS5時空内のDブレーン上のDBI理論の構成を目指す。
摂動の全次数を含む高階スピンゲージ理論が得られたが,摂動級数は一般には収束しない。摂動級数が収束する場合には質量殻上で自由場に帰着することがわかった。そこで質量殻外での高階スピンゲージ理論の解析を行う。具体的には場の再定義やラグランジアンの相似変換などを考えて,マスター方程式が厳密に解けた背後の構造を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により出張の予定がキャンセルされた。また長期で海外出張し研究する計画であったが次年度に持ち越すことになった。当初購入予定であったPCの最新モデルの販売開始が年度末であったため次年度に購入することにした。
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