研究課題/領域番号 |
21K03569
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
今村 洋介 東京工業大学, 理学院, 准教授 (80323492)
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研究分担者 |
横山 大輔 明治大学, 理工学部, 専任講師 (50849312)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超対称性 / AdS/CFT / 超共形指数 |
研究実績の概要 |
AdS/CFT対応はAdS時空上の重力理論あるいは弦理論と、AdS時空の境界上に定義される場の理論の等価性のことであり、場の理論や重力理論を解析する手法を提供する。場の理論のN(ゲージ群のランクに相当するパラメータ)が小さい領域では単純な古典重力が適用できないため、これまでに行われた研究の多くはNが大きいことを仮定していた。 このことを踏まえ、本研究計画はAdS/CFT対応を用いてNが小さい場の理論に対してAdS側の計算を行う手法を開発することを目的としている。特に、AdS上の量子状態と境界上の場の理論の量子状態の対応関係を調べるため、超共形指数と呼ばれる物理量に注目して、その計算手法の開発を行ってきた。 AdS上での計算では、有限のNにおける補正を与えるgiant gravitonと呼ばれる巻き付きブレーン(以下GG)の寄与をどのように取り込むかが主要な課題となる。2022年度は複数枚の重なったGGの寄与の計算方法において、大きな進展があった。これは、4次元の超対称ゲージ理論のみならず、M理論における、二つの極大超対称理論(6次元(2,0)理論と3次元ABJM理論)の超共形指数に対しても全く新しい計算手法を与える重要な成果である。これは、今村の単著論文としてすでに雑誌に掲載済みである。その後、オービフォールドやオリエンティフォールドと呼ばれるより一般の系に対する応用を試み、現在今村、横山およびそのほかの共同研究者との共著論文として投稿準備中である。 研究費は書籍の購入や、研究集会への参加旅費として有意義に使用することができた。また、神戸大学の野海氏との研究打ち合わせにおいて、ブラックホールの量子効果と量子重力における対称性の関係についての知識提供を受け、本研究における巻き付きブレーンの寄与とブラックホールの量子効果の関係の理解を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の研究の主要な目標は、有限のNの場の理論に対して、AdS/CFTを用いた物理量、特に超対称理論において重要な役割を果たす超共形指数の計算方法を開発することにある。2022年度は、GaiottoとLeeによる計算結果を踏まえることで、それまでの手法では難しかった複数枚の giant gravitonと呼ばれる巻き付きブレーン(以下GG)を含む寄与の計算を効率化する手法を開発できた。このことは、当初の計画では予想していなかった大きな進展である。ただし、計算手法の開発およびその有効性の確認に集中したため、その応用、すなわちこれまでの手法では計算が困難であるような場の理論に対してこの方法を適用し、これまでに知られていなかった結果を予言するという研究についてはあまり進展はなかった。以上を踏まえ、全体としてはおおむね順調であるという判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、限定的ではあるものの4次元理論の超共形指数に対する巻き付きブレーンの寄与の計算手法が確立されつつある。今後の研究ではこの計算手法を応用し、4次元理論の超共形指数と関係の深い3次元理論の球面分配関数への巻き付きブレーンの寄与の計算手法の開発に取り組む。3次元理論の一つであるABJM理論はM2ブレーンを表す有効理論であると考えられており、この理論の球面分配関数への巻き付きブレーンの寄与がM理論の枠組においてどのように解釈されるかを明らかにする。また、ABJM理論の球面分配関数は位相的弦理論の分配関数と関係していることが指摘されており、巻き付きブレーンの寄与を計算することにより位相的弦理論の摂動論的な効果についての知見を得ることを目指す。 さらに、これまでに開発した手法のより一般の理論への応用、特に6次元の(1,0)理論やその他の非ラグランジアン理論などの、他の手法では計算することが難しく、いまだに超共形指数が未知であるような系に対する適用を行い、新規な結果を得ることを目指す。 また、これまでに行った解析により、giant graviton からの寄与の計算法がほぼ理解できた。それらの成果をまとめ、数学的にしっかりとした証明を与えることで、手法の精密化を行いたい。具体的には、超対称局所化の手法を用いて AdS 上のブレーンの寄与が特定の giant graviton の配位の寄与のみで書けることを示し、あいまいなまま残されている積分路の選び方の問題などの技術的な詳細を詰めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内の研究集会の参加において、本予算から支出予定だったものの一部に対して、研究集会主催者からの補助を受けることができたため、当初予定より使用額が少なかったこと、専門知識の提供に対する謝金について、複数回行うと予定していた研究打ち合わせなどがタイミングが合わず行うことができなかったことなどが原因である。今後、研究打ち合わせの謝金や研究集会参加のための旅費などとして使用し、もし最終的に余りが出た場合には返還するつもりである。
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