研究課題/領域番号 |
21K03574
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 哲 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (90570672)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 場の理論 / 対称性 |
研究実績の概要 |
近年、場の理論における対称性の概念の拡張と、その応用についての研究が盛んに行われている。その一つの例が「非可逆対称性」である。通常の対称性は逆変換を持つが、非可逆対称性とは、その名の通り逆を持たない対称性のことである。従来、非可逆対称性は2次元では盛んに研究され、非常に重要であることが認識されていたが、現実の時空のような4次元ではほとんど理解されていなかった。それに対して、我々は4次元のある種の格子ゲージ理論で双対性を表す非可逆対称性が存在することを発見した。また、この対称性のなす数学的構造である「交差関係式」を求めた。これは4次元の余次元0の非可逆対称性の具体例を世界で初めて発見したものである。
フラクトン相は量子情報、物性などで最近注目されている新奇な物質の相である。特に「部分系対称性」と呼ばれる新奇な対称性が様々な興味深い性質の元になっている。我々は、このフラクトン相の研究を場の理論の立場から行った。まず、超対称性を持つフラクトン相のモデルを構築した。このモデルでは、フェルミオン的な部分系対称性のために大きな基底状態の縮退があり、しかも残留エントロピーが体積ではなく面積に比例することが分かった。これはブラックホールと同様の性質であり、ブラックホールを理解するためのヒントになると期待している。また、部分系対称性のアノマリー流入に関する研究を具体的な系を用いて行った。実際、部分系対称性を持つようなギャップがある理論の境界にギャップのない理論が現れ、それがアノマリー流入機構により守られていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に4次元での非可逆対称性の例を、それを表すdefectを具体的に構成することにより発見したのは、非常に大きな進展である。今後AdS/CFT対応を通して弦理論にアプローチするための大きな手がかりが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
我々の今年度の研究成果として得られたタイプの非可逆対称性は、AdS/CFT対応で弦理論に対応する4次元の場の理論においても存在することが、我々の研究を含めた最近の研究で明らかになった。この非可逆対称性について、さらに理解を深める。実は、この非可逆的対称性に関して次のようなパズルがある。この対称性は、4次元の場の理論の対称性としては、非可逆であるが弦理論の対称性としては通常の可逆な対称性である。このパズルを解くことで弦理論における対称性の理解や、境界がある場合に起こる現象の理解が大きく進むと期待できる。
また並行してゲージ理論の解析を行っていく。特にquiverゲージ理論と呼ばれるタイプのゲージ理論は、格子上の場の理論や弦理論などとのつながりがあって非常に興味深い理論である。しかし、quiverゲージ理論はカイラルな理論であるために格子ゲージ理論という非常に強力な解析手法が使えない。このquiverゲージ理論を新しい対称性を含めた't Hooft アノマリー整合条件などを用いて解析を行っていく。
また、フラクトン相や部分系対称性についてもさらなる理解を得たい。通常の場の理論では、よく知られている性質、例えばWittenのSL(2,Z)作用の部分系対称性を持つ系への拡張なども行っていく。またquiverゲージ理論は格子系としてフラクトン相と似た性質があると考えられている。ここから、場の理論や弦理論への応用も探求していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延のため、参加予定だった多くの研究会などがオンライン形式になったため旅費を使うことがあまりなかった。2022年度には、研究会や研究打ち合わせなどの旅費に使用する。
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