研究課題/領域番号 |
21K03577
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研究機関 | 国際教養大学 |
研究代表者 |
奈良 寧 国際教養大学, 国際教養学部, 教授 (70453008)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クォークグルーオンプラズマ / 高エネルギー重イオン衝突 / QCD / 微視的輸送模型 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年制作したローレンツベクター型のポテンシャルで相互作用する相対論的量子分子動力学(RQMDv)を用いて、Λバリオンの側方フローを解析した。Λフローのポテンシャル依存性は中性子星の性質を理解する上で重要である。特に、ハイペロンパズルを解決する一つの方法として、密度依存性が強いポテンシャルが示唆されている。強い3体斥力がカイラル平均場理論(χEFT)から計算されたが、この理論にはパラメータの大きな不定性を含んでおり、斥力が十分でない可能性が残されている。そのため、χEFTから得られた強い3体斥力の妥当性を検証するため、重イオン衝突反応で生成される集団フローを計算した。χEFTのΛNN3体相互作用を用いた場合に核子対当たりの重心系エネルギー4.5-20 GeVにおけるΛの側方フローの傾きの実験データを再現できることを示した。しかし、3体相互作用の有無による結果の有意な差異は見られなかったため、強い3体斥力の妥当性は不明のままである。一方、Λの側方フローの傾きはΛポテンシャルの運動量依存性に敏感であることが示された。 1次相転移のシグナルとして、1次相転移による状態方程式の軟化(softening)の効果が、陽子の側方フローの入射エネルギー依存性に出現するという流体模型などの予言がある。しかし、それらの計算では、側方フローの最小点が入射エネルギー約3-5GeV付近で現れると予言し実験結果と矛盾する。そこで、1次相転移の効果の入ったポテンシャルを使った量子分子動力学計算を行ったところ、運動量依存ポテンシャルなしでは、いままでの理論計算同様に側方フローの入射エネルギー依存性に最小点が現れるが、運動量依存ポテンシャルがある場合はその最小点が消えることがわかった。側方フローの実験値は1次相転移の効果を取り入れたモデルで説明できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相対論的量子分子動力学に様々なΛポテンシャルや1次相転移があるポテンシャルを導入し、フローの状態方程式依存性を調べることができるようになった。流体模型と相対論的量子分子動力学(RQMD)を結合するという計画においては、RQMDの改良と状態方程式の構築が重要であることが判明したため、そちらに重点をおいた研究になった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで使っていたモデルは完全にローレンツ共変ではなかった。今後は、ボルツマンタイプの衝突項とポテンシャル相互作用をローレンツ共変にする。テスト粒子法を用いることで、ローレンツ共変性を回復することができるが、この方法ではイベント毎のシミュレーションができない。束縛ハミルトニアン理論を用いることで、テスト粒子法を用いずに、ローレンツ共変にカスケード法とポテンシャル相互作用する模型を開発する。 非相対論的ポテンシャルに有効質量の効果を取り入れるには、運動量依存ポテンシャルを使う。一方、相対論的平均場理論(RMF)では、スカラー型のポテンシャルで有効質量が決まる。よって、RMFで相互作用する量子分子動力学を用いた方法と非相対論的ポテンシャルを用いた方法で集団フローの違いを比べることは興味深い。1次相転移の入った相対論的平均場理論を使った相対論的量子分子動力学(RQMD.RMF)を用いて、集団フローを解析することで、バリオン密度と運動量に依存したベクター型のポテンシャルで相互作用する場合の結果と比較することで、重イオン衝突における集団フロー生成機構の深い理解が得られると期待する。
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