研究課題/領域番号 |
21K03587
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉越 貴紀 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30322366)
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研究分担者 |
大石 理子 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (10420233)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙線(実験) |
研究実績の概要 |
本研究は、次世代大型地上ガンマ線天文台CTAの多様な装置応答関数(IRF)を生成する大規模モンテカルロ(MC)シミュレーションのさらなる効率化を目的とする。計算時間の大部分を占める宇宙線バックグランド事象のシミュレーションにおいて、データ解析で除去されることが自明な事象を空気シャワーの初期反応を参照して同定し、それらを省略する新手法を開発する。 2022年度は、上記課題に大学院修士課程学生が取り組み、結果を修士論文にまとめた。まず、調査対象の望遠鏡構成をCTAの北半球サイト(La Palma)のフルアレイ(大口径望遠鏡(LST)4基および中口径望遠鏡(MST)15基)とし、東京大学宇宙線研究所の計算機システムでガンマ線事象、バックグランド(陽子)事象を大量にシミュレートした。空気シャワーの初期発達パターンの特徴量として横方向運動量および生成粒子種毎のエネルギー比に着目し、これらと望遠鏡アレイで実際に観測される大気チェレンコフ光イメージの幅を、同一シミュレーション事象において比較した。バックグランドシャワーはガンマ線シャワーに比べ横方向運動量が大きく、それを反映して大気チェレンコフ光イメージが太くなるはずであるため、これらの間には正の相関があると期待できる。 シミュレーションデータを解析した結果、3 TeV以上の陽子事象においては正の相関を確認することができた。しかし、3 TeV以下においては相関がないか負の相関になる場合もあり、その原因の特定には至らなかった。また、生成粒子種毎のエネルギー比も合わせて最も強い正の相関が得られる条件を導いたが、その場合でも分布の広がりが大きく相関係数が小さいため、シャワー初期発達パターンによるバックグランド分離は実用可能なレベルに達しなかった。さらに詳細な調査を行い、特に負の相関を示す領域の原因を理解すると共に、分離性能を改善する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実務を担当した大学院学生の就職活動がやや長引いてしまった上、おそらくコロナ禍の影響で当該学生が精神的に不安定になってしまったため、研究は想定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の調査を別の大学院修士課程学生が引き継ぐことになった。まず、同一のシミュレーション事象について、シャワーの初期発達パターンと大気チェレンコフ光イメージを同時に図示するプログラムの開発に着手し、直感と異なる負の相関を示す事象で具体的に何が起きているかを視覚的に捉えることにした。これにより相関を悪くしている原因を考察し、解析手法を改善する。また、バックグランド除去性能が高エネルギー帯でより高いCTAの南半球サイト(Paranal)に調査対象を広げ、シャワー初期発達パターンによるバックグランド分離性能の改善を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、予定していた外国出張を控えることにした。次年度は積極的に外国での成果発表および研究打合せを行う予定であるが、本研究用の計算機の増強に使用することも検討する。
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