研究課題/領域番号 |
21K03589
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
長谷川 庸司 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (70324225)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トリガー / 機械学習 |
研究実績の概要 |
LHC-ATLAS実験における陽子陽子衝突で発生するミュー粒子をミュー粒子トリガー検出器を用いて通過位置を検出し,その情報を用いて事象選択を行うトリガーアルゴリズムの開発を行う。従来のトリガーアルゴリズムでは選択することができない事象,特に,標準模型を超える物理に現れる,陽子陽子衝突点から離れた位置で崩壊する長寿命粒子が発生した事象を,その離れた崩壊点で発生するミュー粒子を検出できるようにすることで,事象選択のトリガー効率の向上を目的としている。 従来のアルゴリズムでは,衝突点由来の粒子と長寿命由来の粒子を使ってトリガーするには,計算機資源(リソース)が大きくなる欠点があるが,機械学習を用いると,それらの事象の両方を一つの機械学習で取り扱うことができるようになり,限られた計算機資源で高効率の事象選択トリガーが実現できる可能性がある。 今年度は,機械学習の種類によって,従来のトリガー効率を改善することを目的に,Convolutional Neural Network(CNN)とGraph Neural network(GNN)を用いた機械学習モデルを作成し,トリガー効率の性能評価を行った。CNN,GNNのどちらも,事象選別に適した特徴を持ち,特にGNNは荷電粒子の軌跡の再構成に利用する研究が行われている。CNNについては,従来のトリガーアルゴリズムと同等の性能が得られている。しかし,計算機資源についての評価は行っておらず,限られた計算機資源を有効に使うための最適化が必要となる。GNNについては,設計段階であり,まだ従来のアルゴリズムの性能に達していないが,改良する余地が多々あり,現在より性能が向上すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
陽子陽子衝突で発生したZ粒子が2つのミュー粒子に崩壊した事象をシミュレーションにより生成し,機械学習モデルの性能評価に用いた。機械学習モデルへの入力はミュー粒子が7層あるミュー粒子検出器に残したヒット位置情報(η,φ)を用いた。 CNNでは,各層で2次元の(η,φ)のヒット位置の情報を画像データとみなしてCNNの入力とし,出力には,ミュー粒子の横方向運動量と,ミュー粒子の数を設定して学習させた。画像のサイズや畳み込み,結合数などを変えながら,性能評価を行なった。その結果,従来のトリガーアルゴリズムと同等の性能が得られることが分かった。 GNNについては,各層のヒット間相互の繋がりを考慮することで,効率的に飛跡を再構成し,トリガー性能が向上させることができると考えられる。出力として,トリガー位置の座標(η,φ)を設定して学習させた。従来のアルゴリズムと比較し,位置測定の精度はやや劣る結果となったが,入力やノード結合を調整することで,性能が改善可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
CNNおよびGNNを用いた機械学習のモデルの最適化を行う。その後,開発した学習後の機械学習モデルをFPGAに実装する。これまでの研究では,機械学習モデルにリソースの制限を課していないので,リソースに制限のあるFPGAに実装する際には,性能を落とさずにリソースを減らす最適化の研究が必要になる。実際にLHC-ATLAS実験で用いられるFPGAと同等のものを用いて実装後の性能評価を行う。また,利用するテストボードにはSystem on Chip(SoC)が搭載さているため,FPGAでの論理演算だけでなく,プロセッシングユニットを用いたより柔軟なアルゴリズムの実装も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内の納期に間に合わなかったため,適切なテストボードが入手できなかった。そのため,実装の試験は行う事ができなかった。今年度に購入し,試験を行う予定である。
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