研究課題
日本で行われている長基線ニュートリノ振動実験であるT2K実験では、レプトンセクターでのCP対称性の測定を目指してJ-PARCのビーム強度の増強を行っている。その際にミューオンモニターを放射線耐性の高い検出器に更新する必要があり、電子増倍管という検出器に着目して研究を行っている。電子増倍管は小型のメタルパッケージ光電子増倍管のカソードにアルミを蒸着させ光電子を発生させなくしたもので、ミューオンがダイノードに当たって生成された二次電子を増幅させるものである。令和3年10月20日から22日に東北大学電子光理学研究センターにおいて約90MeVの大強度電子を電子増倍管に入射させ、その応答を調べた。入射させたビーム強度は160nAで、短時間でJ-PARCの将来強度1000日分の照射ができるようにした。この放射線耐性試験の結果は、将来のJ-PARCのビーム強度でも100日分照射に対し信号減少が3%以下で、十分運用に耐えるものであった。また、1000日分の照射でも10%の減少で抑えられるという結果も得られた。次に放射線劣化の原因であるが、信号増幅による最下流ダイノードの劣化が考えられたので、電子増倍管に電圧を印加せずに電子を照射させる実験も行ったが、照射中の電圧の印加のON/OFFに依らず同程度の信号の減少が見られたことから、信号増幅による最下流ダイノードの劣化が原因ではないことが判明した。次に疑われたのがブリーダー回路の劣化であるが、将来強度約1000日分のビームをブリーダー回路に照射しても信号の減少は観測されなかった。さらなる原因の追究が必要である。
2: おおむね順調に進展している
当初の目標は電子増倍管が高強度のビーム照射に対して長期に渡って安定して信号を出すことを確認することであったので、東北大学電子光理学研究センターでビームテストを行い、J-PARCでの将来のビーム強度に対して100日間照射を続けても信号の減少が3%以下に抑えられることを確認できたのは1つの成果として評価できると考えられる。1000日分の照射でも10%の信号減少に抑えられることも分かった。放射線劣化の原因を特定しようとしているところであるが、まず信号増幅による最下流ダイノードの劣化を疑ったが、検出器への電圧の印加のON/OFFで比べても信号の減少の程度が同じくらいだったことから、最下流ダイノードの劣化ではないことが確認された。ブリーダー回路の回路素子の劣化も疑ったが、これも違うことが確認された。引き続き原因特定の努力が重要である。
電子増倍管の放射線劣化の原因を特定するべく、令和4年度も東北大学電子光理学研究センターにおいてビームテストを行うことを検討している。また、電子増倍管の個体差を調べるために、J-PARCニュートリノビームラインにおいて10~20個の電子増倍管に同時に大強度ミューオンを照射してゲインの違いなどの応答の違いを見る大量試験を行う。
当初は学会旅費として6万円弱を充てていたが、新型コロナ感染症のために学会がオンラインになったため、旅費の使用が無かったことで、次年度使用額が生じた。これは学会や研究会旅費に充てる予定である。
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Physical Review D
巻: 103 ページ: -
10.1103/PhysRevD.103.112008
10.1103/PhysRevD.103.112009