研究課題
長基線ニュートリノ振動実験であるT2K実験では。レプトンセクターのCP対称性の破れの発見を目指してJ-PARCでの加速器のビーム強度増強が行われている。その時に問題になってくるのが、ニュートリノ生成時に発生するミューオンを測定するミューオンモニターの放射線劣化の問題である。そこで、ミューオンモニターに使用する新たな検出器の候補である電子増倍管(EMT)の開発を行っている。EMTは小型の光電子増倍管の光電面をアルミ蒸着にしたものであり、ミューオンの衝突によりダイノードから発生した二次電子を増幅することでミューオンの照射量を測定する。前年度の研究から高い放射線耐性を有していることが確認されているが、測定開始時に数%から十数%の信号が低下しその後安定する様子が確認されている。これを初期不安定性と呼び、令和4年11月に東北大学電子光理学研究センター(ELPH)でビームテストを行い、この原因が温度依存性によるものであることが高いことを突き止めた。また、EMTも長い時間をかけて放射線劣化し、J-PARCのメインリングの将来強度(1.3MW)換算で1050日程度では10%の減少が見られる。この原因追及のため、EMT本体とデバイダー回路に高強度ビームを照射し、その後それぞれに劣化していないデバイダー回路とEMTを接続して応答を見たところ、EMT本体に照射した方に信号の減少を見たことから、放射線劣化の原因はEMT本体にあることを見出した。また、EMT本体のうちカソードまたはダイノードが劣化しているのかを調べるために、カソードと1段目ダイノード間をショートさせた改造デバイダー回路を用いて実質的にカソードの劣化の影響はない測定を行った。その結果、EMTの放射線劣化の原因はダイノードに蒸着されたアルカリアンチモンの劣化である可能性が高いことを見出した。
2: おおむね順調に進展している
2021年度に電子増倍管が高い放射線耐性を持つこと、すなわちJ-PARCのメインリングの将来強度(1.3MW)換算で100日間ビーム照射を続けても信号の減少が3%以下に抑えられること、また、1000日分換算の照射でも10%の信号減少に抑えられることを確認できたことに加え、2022年度はEMTの信号の初期不安定性の原因が温度依存性によるものであることが高いことを突き止めたこと、EMTの放射線劣化の原因がブリーダー回路ではなく、EMT本体にあることを見出したこと、およびEMT本体の放射線劣化の原因がダイノードに蒸着されているアルカリアンチモンの劣化である可能性が高いことを見出したことは、評価に値すると考えられる。
電子増倍管の個体差を調べるためにJ-PARCニュートリノビームラインにおいて10~20個の電子増倍管に同時に大強度ミューオンを照射してゲインの違いなどの応答の違いを見る大量試験を行う。これで問題が無ければ、7×7の碁盤目状にEMTを設置して、ミューオンのプロファイルの測定に移り、プロファイル中心が3cmよりも高精度で測定できるか確認する。プロファイル中心が3cmの精度というのは、ニュートリノビームの方向が1mradの精度に相当する。
科研費使用時に端数の計算を誤り、7円が残ってしまった。次年度の物品費として使用する予定である。
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Journal of Instrumentation
巻: 17 ページ: -
10.1088/1748-0221/17/10/P10028