研究課題/領域番号 |
21K03598
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
中浜 優 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (10786180)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒッグス粒子 / ヒッグス自己結合 / 新物理探索 / トリガー / ATLAS実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒッグス粒子対生成 (hh) 事象をプローブとして、(1) ヒッグス自己結合定数などの多様な測定を世界に先駆けて行い、素粒子標準理論の脆弱部分であるヒッグス場構造の全貌を解明し、さらにその背後にある新物理を探索すること、および、(2) ヒッグス対生成事象取得専用の大量データ取得法の開発も行い、将来実験に展開することである。 (1) 物理解析の研究では、昨年度までに開発した、ヒッグス粒子の自己結合測定の方法論確立、および、それに用いるヒッグス対生成過程の早期発見に向けた解析手法改善を完成させた。それらの手法を、LHC-ATLAS実験 第2運転期間の高統計データ (重心系エネルギー13 TeV 陽子陽子衝突139 fb-1) に適用し、崩壊分岐比が最大の4bジェット終状態に着目して、ヒッグス粒子対生成非共鳴状態を探索した。データに兆候は見られなかったが、ヒッグス場形状に対応するヒッグス粒子自己結合の直接制限、および、ヒッグス有効場理論を用いた新物理効果の解釈を行った (Physics Review Dに投稿済)。次に、他の終状態およびヒッグス粒子単独生成過程の物理解析を統計的に統合することで、自己結合定数を世界最高精度で抽出した(-0.4<k<6.3 @95%CL。Physics Letters Bに受理済)。さらに、早期発見を実現するために、今年度からは、hh->bbbbと相補的で、かつ、発見感度が一番高い終状態 (hh->bbττ) の物理解析も開始した。 (2) トリガーの研究では、昨年度までに開発した新型トリガー"非対称閾値型複数bジェットトリガー"を、2022年のデータ取得から運用開始した。このhh->bbbb事象の専用トリガーにより、事象収集効率を40%も向上させることに成功し、残りの運転期間も運用を継続する。さらに、この独自技術を応用して、hh->bbττ事象の専用トリガーも開発し、2023年から運用開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 物理解析の研究では、まずhh->bbbbチャンネルにおける非共鳴状態探索結果を論文出版した。特に、ヒッグス有効場理論を用いた結果解釈は世界初、かつ、独自結果である。これらの成果により、当初計画していなかった、ヒッグス対事象による直接制限とヒッグス単体事象を用いた間接制限を組み合わせた「究極のヒッグス自己結合解析」も主導して行い、結果をPhysics Letters Bへ投稿した(受理済)。 (2) トリガーの研究では、hh解析専用のトリガー選別技術を世界で先駆けて開発してきたが、今年度開始の第3運転期間において安定運用させることに成功した。 (1) (2) ともに当初の計画を超えて、hh->bbbbと相補的で、かつ、発見感度が一番高い終状態 (hh->bbττ) に着目した研究も開始した。
以上から、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) hh->bbττチャンネルにおける非共鳴状態を用いたヒッグス粒子自己結合の直接制限、ヒッグス有効場理論を用いた新物理の解釈、および、論文出版 (2) 第3運転期間におけるヒッグス対生成事象専用トリガーのデータを用いた性能評価、および、論文出版
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は依然としてコロナ禍による海外渡航や出張制限により、CERN出張および学会現地参加を部分的に行い、一部オンライン参加に切り替えたため。 2023年度は完全再開したため、CERNでのデータ取得運転参加、国内外での対面打ち合わせ、成果発表、議論を積極的行うことにより、本研究課題を完遂するために使用する計画である。
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