研究課題/領域番号 |
21K03605
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
池田 大輔 神奈川大学, 工学部, 助教 (60584258)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 極高エネルギー宇宙線 / 大気蛍光望遠鏡 / フレネルレンズ / 事象再構成 / 装置開発 |
研究実績の概要 |
極高エネルギー宇宙線の将来計画として、既存の実験の10倍を超える有効検出面積と持ち、化学組成に感度のある実験が期待されている。本研究ではこれまで観測に用いられてきた大気蛍光望遠鏡を簡素化した、次世代大気蛍光望遠鏡による観測手法を確立することにある。本年度は、検出器シミュレータを用いた研究により、焦点面検出器を構成する光学素子の形状の最適化を行ない、本実験で用いる検出器のデザインを決定し、実機の制作を開始することができた。 素子形状を評価するパラメータとして、宇宙線の到来方向の決定精度を選択した。これは化学組成の測定精度に直結し、望遠鏡を簡素化したことで精度悪化が最も懸念されるパラメータである。そこで観測波形の形状を用いた事象再構成手法を開発し、シミュレーションで生成した様々な光学素子形状の元で観測が期待される疑似事象を再構成し、得られた到来方向の精度を用いて素子形状を評価した。 光学素子として、投影形状が円となる8インチ及び5インチのPMT、及びさらに小型のPMTに対して投影形状が三角形となるライトガイドを付した物の3種類を候補とした。宇宙線による軌跡の位置に対して得られる波形が大きく変化する三角形形状の素子が最も精度が良いであろうという予測があったが、結果として5インチPMTを用いた物で大きな差はなく、また両者共に化学組成を測定するために必要とされていた到来方向精度3度を満たすことが分かった。そこでコストを考慮して、5インチPMTを12本用いた焦点面検出器が最適であると結論付けた。 またこのデザインに従った5インチPMT12本を固定するカメラフレームの設計を完了した。また検出器シミュレーション上のレンズによる集光を評価するために、スキャナを用いて焦点面上での集光イメージを取得し、シミュレーションとの光量分布の比較を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では本年度は波形を用いた事象再構成手法の開発、これを用いた焦点面検出器デザインの完成、及び三角形素子形状を実現するためのライトガイドの試作と性能評価を行なう予定であった。事象再構成手法に関しては検出器デザインを評価可能な物を開発することに成功した。これを用いて複数の素子形状案に対して評価を行ない、焦点面検出器デザインを完成させることもできた。 一方で、この評価の結果として、計画時に想定していた三角形形状素子は、5インチPMTをそのまま使う物に対してコストを上回る優位性がないことが判明した。これは三角形形状素子に問題があった訳ではなく、5インチPMTでも十分な精度を達成できたためである。そこでライトガイドの試作は取りやめることになり、結果として次年度に行なう予定であった実機制作への着手を早めることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
次世代大気蛍光望遠鏡による観測手法を確立に辺り、シミュレーションを用いた観測可能面積や再構成精度の調査は必須であるが、現在の事象再構成プロセスは時間がかかりすぎるため、大量のシミュレーション事象や詳細のデータ解析を行なう上で改良が必要である。これはパラメータ空間を探索する際に、局所的最適解に落ちてしまうのを防ぐために初期値を探索する必要があるが、このアルゴリズムに問題があるためである。大局的最適解を探すアルゴリズムとして、差分進化法や、レプリカ交換法などを実装し、調査する予定である。 また実機による試験を行なうため、装置構築を行なう。主にシミュレーション上の実装が現実を正しく反映しているのか、その精度はどの程度かの調査を目的としており、昨今の情勢から国内での試験を想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関しては、当初予定していたライトガイドを使用しないことになり、その分装置構築を早めることとなったため、購入計画を大きく変更することとなった。具体的にはライトガイドを取りやめた上、FADCボードを他予算で賄い、5インチPMTを購入することとなった。残額は次年度以降に必要となる高圧電源や追加のPMTを購入するには不足しているため、次年度予算と合わせて使用する予定である。 旅費に関しては、当初国内会議2回を想定していたが、新型コロナウイルス対応で国内会議が1回分中止となったため生じた。次年度以降、新型コロナウイルスの状況が改善した際に会議を行なう予定である。
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