研究課題/領域番号 |
21K03610
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
永田 竜 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 主任 (00571209)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 重力レンズ / 宇宙マイクロ波背景放射 / データ解析 / 偏光 / 系統誤差 |
研究実績の概要 |
原始密度揺らぎを起源とするマイクロ波背景輻射の偏光は偶パリティパターンの空間分布を持ち、その統計性は天球上で等方的であることが観測的に検証されている。背景輻射の伝搬は光路上に分布する質量によって若干の屈折を受け、その際に偏光地図が変調され奇パリティパターンを生ずるが、同時に偏光地図の統計性にも非等方性が現れる。統計の非等方性を援用することで、光路上の質量分布を推定し、宇宙の密度構造を明らかにするための実験的枠組の検討を推進した。 2021年度は擬似観測データの数値シミュレーションに必要なソフトウェアの開発を行った。天球上の領域毎に特性の異なる観測装置を想定した系統誤差を印加するモデルを構築し、偏光地図群の相対的な較正の不一致が全天地図にもたらす汚染の性質を定量化することができるようになった。擬似観測データを用いた重力レンズ解析を実行し、実際に重力レンズポテンシャルの再構築を行うことで、斯かる系統誤差が重力レンズ解析へ伝播していく振る舞いを分析することが可能となった。これらの成果により、擬似データ標本の収集を開始して統計的な評価を行うための準備が整った。研究の遂行にあたっては、数値計算を目的とした計算機を導入し、新規ソフトウェアの開発とシミュレーション運用環境の整備を行った。 2021年度の研究活動によって、異なる特性の装置によって観測された偏光地図群からなる全天観測の擬似データの生成が可能となり、標本生成から重力レンズ解析までに至る一連の処理を網羅したことで、本研究の要となる数値シミュレーションを実施する体制が概ね整ったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画初年度における研究の着手に際しては、観測データとそれに付随するデータ解析出力の擬似標本を数値的に生成するためのソフトウェア開発を達成目標とした。2021年度の取り組みにおいて、偏光地図群からなる観測の擬似データを用いた重力レンズ解析が実現されたことにより、標本収集に必要な一連のツールが整備された。一部の系統誤差については実装の自由度が確認されたため開発を継続することとしたが、全体として初年度の目標は達成された。ソフトウェア開発やシミュレーションの運用に要する計算機環境の調達も 2021年度中に完了している。限られたエフォートで取り組む中、開発作業以外の活動が手薄となってしまった反省があり、次年度以降の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
系統誤差計算の実装にかかわる作業継続中の事案については 2022年度中頃までの完了を目指して取り組みを続ける。シミュレーションの本格運用を開始して擬似標本の収集に着手し、それと並行して標本に統計解析を適用するための準備を行う。初期に取得した標本を用いて統計解析の先行評価を行うことを 2022年度の成果目標とする。また、関係分野の研究者と連携し、観測ジオメトリなどに関する実際の将来計画を反映したシミュレーションのセットアップについて検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は感染症拡大に配慮した出張の自粛などにより旅費を伴う活動が著しく抑制された。また開発実施にあたって作業遂行にエフォートの重きを置いた結果、開発終盤に利用する消耗品等の購入を次年度に持ち越す次第となった。これらによる研究計画全体への影響は軽微なものである。 繰越金は、開発のための消耗品購入および研究会や研究打合せなどの旅費を使途とする予定である。
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