研究課題/領域番号 |
21K03612
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
政田 洋平 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (30590608)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超新星 / 中性子星 / ダイナモ / 電磁流体シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中性子星磁場とその多様性の起源を解明することである。令和3年度は、独自開発した数値計算モデル (PNS in a Box model) を使って、原始中性子星ダイナモの系統的シミュレーションを行い、ダイナモに対する対流層の深さや自転率の影響を調べた。形成直後の中性子星の対流層の深さは、重力崩壊前の親星の物理特性に依存すると考えられており、対流層の深さと自転率をパラメトリックに変化させることで、重力崩壊直前の鉄コアの物理状態が中性子星磁場の形成に及ぼす影響を理解する手助けになる。我々は、原始中性子星の全域(中心から外層までの全体)をデカルト格子ですっぽり覆う "PNS in a box" と呼称するシミュレーションモデルを独自に開発、核物質の状態方程式と現実的な内部構造モデルの下で、初めて原始中性子星における対流・ダイナモ過程を調査した。 本研究の結果、レプトン勾配駆動型対流の「自転にともなう対称性の破れ」の自然の帰結として、(i)南北非対称な大局的流れ場や南北反対称なエントロピー構造が形成されること、(ii)マグネター級の強度(10^{15}G程度)を持つ双極磁場構造が自発的に生じること、(iii)対流層が原始中性子星の中心に向けて拡がっているほどダイナモが効率的になること、などを明らかにした。 本研究で得られた特筆すべき成果は、従来の理論的な予測 (e.g., Thompson & Duncan 1993) より1桁以上遅い自転でも、原始中性子星においてダイナモが働くこと(即ち強磁場がin-situで生成されること)を指摘した点であり、これは中性子星磁場の起源に関する定説(化石磁場説*)に、一石を投じる重要な成果である。本研究の成果は、査読付き学術論文としてすでに出版済みである(Masada et al. 2022, ApJ)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、原始中性子星の電磁流体計算モデルを独自に開発し、それを使ってレプトン勾配駆動型対流とダイナモのシミュレーション研究を実施できた。現実的な原始中性子星モデル(核物質の状態方程式と重力崩壊シミュレーションのデータをコンバインした内部構造モデル)を使ったダイナモ計算は世界初であり、1990年代前半以降停滞していた "中性子星磁場の起源の研究" を大きく前進させる取り組みになった。得られた成果も従来の理論予測(e.g., Thompson & Duncan 1993)を覆す重要なものであり、出版した論文が後続の研究に大きなインパクトを与えている点を鑑みても、おおむね順調に研究が進展していると言える。一方、シミュレーションの規模が大きいこともあり計算リソースが足りておらず、広いパラメータレンジでのサーベイ研究ができていない点には不満が残る。特に、重要なパラメータである「対流層の深さ」については2通りしか調べられておらず、統一的な理解へ向けてより広範なパラメータサーベイが不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、前年度に開発した原始中性子星の計算モデルを使って、さらに広範囲のパラメータサーベイを実施する。特に、対流層の深さに対するダイナモ生成磁場強度の依存性を調べることで、中性子星磁場の多様性の起源に迫りたい。また、原始中性子星の平均場ダイナモモデルを独自に開発し、原始中性子星の熱的進化と磁気的進化を同時に解くことを目指した取り組みもスタートさせる。我々がとる戦略は、シミュレーションで得られた乱流起電力とそのパラメータ依存性をモデル化し、平均場モデルに取り組む方法であり、太陽ダイナモの文脈で、すで基礎的な理論ベースは構築済みである(c.f, Masada & Sano 2014a,b)。本研究の最終目標である、典型的な中性子星とマグネターの分岐を決める物理の特定を目指し、令和4年度は原始中性子星ダイナモに対する理解を深め、その理解を簡易モデル(平均場モデル)の開発に着実に繋げていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の感染拡大により、当初予定していた国際会議への参加ができなかったため。海外渡航制限が緩和されたため、令和4年度は複数の国際会議に参加予定であり、次年度繰越金は国際会議への参加に充てる予定である。
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