研究課題/領域番号 |
21K03613
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木野 勝 京都大学, 理学研究科, 助教 (40377932)
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研究分担者 |
軸屋 一郎 金沢大学, フロンティア工学系, 准教授 (90345918)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 望遠鏡 / 分割鏡 / フィードバック制御 |
研究実績の概要 |
今年度は新規開発する力制御型の分割鏡制御システムの詳細な仕様を決定し設計に反映させるため、観測運用中のせいめい望遠鏡を用いて現有の位置制御型分割鏡制御システムでのデータ取得と解析を優先的に行った。一般的な開発では望遠鏡構造に基づいたシミュレーションや予測値から要求仕様を決定するが、従来のシステムとはいえすでに運用中の実機が存在することから、鏡面の駆動に必要なストロークや外乱振動など望遠鏡構造や設置環境のみに依存し制御方式に依らない情報については、実測データを充実させる方針をとった。また分割鏡制御の影響を最も強く受ける、京都大学で開発中の補償光学装置のチームとも頻繁に情報交換を行い、互いの要求性能や実現の見通しについて共通認識を持ちながら研究を進めている。これらをもとに、年度の後半でボイスコイルモータ・オフローダーなどの主要部品の選定とそれらを組み込むための機械設計を進めたが、予定よりも設計作業に遅れが生じたため多くの物品の調達には至らなかった。 評価対象となる新システム自体の設計と並行して、その組立・測定を行う環境の構築を行った。分割鏡相当のダミーウェイトや振動を測定する変位センサ・加速度センサ、およびそれらを搭載する除振台などは、せいめい望遠鏡の開発時に使用した物品を流用可能であったため収集するとともに、不足する制御・解析用計算機等については新たに調達を進めた。 研究の初年度であり実機の開発や評価などの結果が出る前の段階のため、論文出版・学会発表などは行っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の木野は新規開発する分割鏡制御システムに組み込むボイスコイルモータ等の主要部品の仕様を決定するため、従来の分割鏡制御システムを用いて運用中のせいめい望遠鏡を用いて必要な駆動ストロークや外乱振動等の取得と評価を行った。せいめい望遠鏡の維持・管理に於いては当初予想されていたよりも鏡の脱着回数が多く、再設置時の調整作業を容易にするために駆動ストロークを現在よりも増やす方針とした。また、せいめい望遠鏡に搭載予定の観測装置の中では最も精度要求が厳しい補償光学装置の開発も進んできたため、こちらとも要求仕様の摺り合せを行い、ボイスコイルモータ部分・オフローダー部分の仕様決定と購入対象の選定を行った。 計画ではオフローダーとしてモータを用いた能動型と単純な錘を用いた受動型を比較する予定であるが、まずは後者の受動型から制作することとした。望遠鏡に組み込み可能な装置の大きさも鑑みオフローダーの共振周波数は0.5 Hz程度とし、それよりも高周波な振動は免震構造でカットし、低周波成分はボイスコイルモータで能動的に制御して抑制する方針とした。これらの要素部品を評価用のテストベッドに組み込むための機械部品、および実際に望遠鏡架台に組み込むための機械部品の設計を進めており、それが完了しだい調達に移る予定である。 研究分担者の軸屋は測定データの解析およびアクチュエータの駆動ソフトウェアを開発する環境の整備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の木野は当初より遅れている機械設計を早急に完了し望遠鏡へ搭載が可能であることが確定次第、ボイスコイルモータ・オフローダーを構成する主要部品と単軸での評価システムの構築に必要な機械加工部品の調達を始める。評価に必要な除振台などの環境や、実際に外乱振動が抑制されたかを測定する変位センサ・加速度センサなどはせいめい望遠鏡の開発時に使用したものが残っておりこれらを活用する。 単軸での評価で予定していた免震性能・駆動性能が得られることが確認できたら、修正点を望遠鏡架台に組み込むための機械部品の設計に反映し、3軸駆動の性能評価システムの開発に移行する。単軸での評価で使用した環境に加え、せいめい望遠鏡の開発時に使用した分割鏡相当のダーミーウェイト(大きさ約1.2 m、重さ約70 kg)を取り付け、実機に近い状態での性能評価を実施する。予定した駆動特性・外乱抑制性能が得られた場合は、開発したアクチュエータを岡山天文台に持ち込み、せいめい望遠鏡に取り付ける。 研究分担者の軸屋はテストベッドで得られたアクチュエータの特性を解析するとともに、分割鏡制御プログラムのうち鏡1枚分を本アクチュエータに合わせた制御則に変更する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規開発する分割鏡制御システムの仕様決定にあたり、従来の分割鏡制御システムを用いて運用中のせいめい望遠鏡における実際の運用データを通年で取得しておくべきと判断したため、その後の設計作業などの開始に遅れが生じた。また、上記運用データを取得したことにより、現在の分割鏡支持構造では特に冬場の低温時に鏡面が変形することがわかったため、その原因究明に加え新規開発する制御システムの設計にもそれに対応した改良を施す必要があった。これらの理由により機械設計が年度内に完了しなかったため予定していた加工部品の調達を行えなかった。またボイスコイルモータ・オフローダー等の主要な構成部品についても、機械設計の目処がつき、実際に望遠鏡に組み込める見通しが立ってから調達を行ったほうが安全だと判断したため、年度内の購入は見送った。 2022年度前半には遅れている機械設計を完了し機器の調達、および当初予定していた性能評価に移行できる見通しである。
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