研究課題/領域番号 |
21K03623
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
森 英之 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 招聘研究員 (20432354)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | X線天文学 / 強磁場激変星 / 白色矮星 / 重力赤方偏移 |
研究実績の概要 |
Chandra 衛星で得られた、強磁場激変星 RX J1712.6-2414 のX線精密分光データの解析を行った。マグネシウム、ケイ素、硫黄の特性X線のエネルギー中心値が有意に低エネルギー側にずれている (赤方偏移している) ことを発見した。これらのエネルギーのずれは、輝線を放射するプラズマの視線方向速度にして 200 ~ 500 km/s に対応する量であった。これまでの降着流モデルから計算される、各元素の降着速度に伴うドップラーシフト (100 km/s 程度) では説明できないずれであり、連星系の固有運動や降着流の光学的厚みなど、様々な可能性を考慮しても説明できない量であった。したがって輝線の中心エネルギーのずれは、RX J1712.6-2414 の主星である白色矮星の重力赤方偏移と考えるのが自然である。ここから計算される重力ポテンシャルの深さから、白色矮星の質量は太陽質量の 0.9 倍以上と見積もられ、従来の降着流モデルの推定値 (太陽質量の 0.6 ~ 0.8 倍程度) を上回る結果となった。この結果を現在論文にまとめているところである。 強磁場激変星のX線スペクトルからの重力赤方偏移の検出は、世界初となる。またこれまで推定されてきた RX J1712.6-2414 の質量を超える結果である。そのため、輝線の中心エネルギー値のずれを重力赤方偏移と解釈してよいか、従来の降着流モデルで考慮されていない物理素過程による影響はないか、などを慎重に検討して執筆を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初の目的は、Chandra 衛星で得られた RX J1712.6-2414 のX線精密分光観測データを、RX J1712.6-2414 の自転周期にもとづいて時間分割し、輝線の中心エネルギーの自転周期依存性を調べる予定であった。その前段階として、全観測時間のX線スペクトルを解析したところ、予想外に大きな中心エネルギーの赤方偏移を発見した。様々なプラズマ降着流モデルを検討したり、赤方偏移を生じうる効果について検討してきたが、速度に換算して 200 km/s 以上の赤方偏移を説明できるものはなかった。RX J1712.6-2414 の主星である白色矮星の重力赤方偏移の検出と考えるのが自然という結論に至った。強磁場激変星からの重力赤方偏移の検出は世界初のことであり、この成果をいち早く報告する必要性が出てきたため、当初の研究計画を変更して、重力赤方偏移検出の論文の執筆を優先させることとした。
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今後の研究の推進方策 |
RX J1712.6-2414 からの重力赤方偏移の論文は、投稿直前の状態にある。そこで今後は当初の研究計画に立ち戻り、自転周期にもとづいて時間分割したX線スペクトルの解析を行う。白色矮星の自転による輝線の中心エネルギーの変化から、プラズマ降着流内部の速度を算出し、プラズマ降着流の速度場と温度場の関係を確立する。得られた速度場と温度場を再現するプラズマ降着流のモデルの構築を進める。プラズマ降着流の新モデルから、RX J1712.6-2414 の質量を推定しなおす。重力赤方偏移から得られた重力ポテンシャルの深さから、独立した質量推定値が得られるため、両推定値をセルフコンシステントに説明できるように、プラズマ降着流のモデルに必要な物理素過程を取り込み、モデルを精密化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍購入費として使用する予定でしたが、書籍の出版が次年度の 4 月であったため当該年度中には使用しませんでした。次年度使用額についてはこの書籍購入に充てる予定です。
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