Chandra 衛星で得られた強磁場激変星 RX J1712.6-2414 のX線精密分光データの解析から、マグネシウム、ケイ素、硫黄の特性X線のエネルギー中心値が有意に低エネルギー側にずれている (赤方偏移している) ことを発見し、論文として発表した (Hayashi et al. 2023)。また本研究結果は、日本天文学会秋季年会の記者発表に選定された (「X線がとらえた白色矮星の重力赤方偏移」)。エネルギーのずれは輝線を放射するプラズマの視線方向速度にして 200 ~ 500 km/s に対応する量であり、降着流モデルから計算される、各元素の降着速度に伴うドップラーシフト (100 km/s 程度) では説明できないほど大きなものであった。連星系の固有運動や降着流の光学的厚みなどの可能性を考慮しても説明できない量であり、RX J1712.6-2414 の主星である白色矮星の重力赤方偏移とみなすのが自然と考えられる。ここから計算される重力ポテンシャルの深さから、白色矮星の質量は太陽質量の 0.9 倍以上と見積もられ、従来の降着流モデルの推定値 (太陽質量の 0.6 ~ 0.8 倍程度) を上回る結果となった。重力赤方偏移の視線方向速度への寄与が予想外に大きく、プラズマ降着流のドップラー速度を 2 倍以上上回っているため、精密な速度場の導出を慎重に進めざるを得なくなっている。また重力赤方偏移の結果とセルフコンシステントである必然性から、これまで重視されてこなかった白色矮星の重力場も考慮したX線放射モデルを確立すべきことが分かった。 並行してすざく衛星の観測データの綿密な解析を進めており、公転周期の位相によって自転周期に伴うX線光度変動が見えたり見えなかったりする機構について、連星系の幾何学を中心とした議論を交えて論文を執筆している。
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