研究課題/領域番号 |
21K03633
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
馬場 淳一 国立天文台, JASMINEプロジェクト, 特任助教 (90569914)
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研究分担者 |
斎藤 貴之 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (40399291)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 天の川銀河 / 太陽系 / 銀河動力学 / 位置天文学 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究計画は、天の川銀河(銀河系)の数値シミュレーションと、位置天文観測衛星 Gaiaなどの最新観測データを用いて、太陽系や星の軌道移動過程を駆動する天の川銀河の棒状構造の動力学的性質や形成進化過程を明らかにすることが目的である。本年度は以下のような研究成果を得た。 (1) ASURAコードを用いた天の川銀河のN体/SPHシミュレーションを行い、その結果を解析することで、棒状構造の形成後、座屈不安定を経ることなく、鉛直軌道共鳴によりボックス型 (BPXバルジ) の3D構造へと力学進化することを明らかにした (Baba, Kawata & Schoenrich 2022, MNRAS 出版済み)。 (2) さらに、この際に、 ガスが銀河中心領域に急激に流れ込むことで、棒状構造領域のガスが枯渇し星形成率が急激に減少すること、さらに棒状構造形成期の時間変動性に伴う軌道の運動の積分(ヤコビエネルギー)の非保存により、棒状構造形成前に形成された星が選択的にBPXバルジになることを明らかにした。この現象から期待されるBPXバルジの星の年齢分布は、中心核バルジ (NSD) 領域での星の年齢分布 (Baba & Kawata 2020) とは相補的になるため、BPXバルジとNSDの星の年齢分布を観測的に明らかにすることで、棒状構造の形成時期を推定できる可能性を提案した (Baba, Kawata & Schoenrich 2022, MNRAS 出版済み)。 (3) 天の川銀河シミュレーションデータとGaia EDR3データの星の軌道パラメータ(作用積分)を解析することで、力学的に熱い星の作用積分分布から、渦状腕構造の影響を避けて、棒状構造のパターン速度を観測的に制限することに成功した (Kawata, Baba et al. 2021, MNRAS 出版済み)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
棒状構造形成時期に関する新たな知見を論文 (Baba et al. 2022) として出版することができた。さらに、シミュレーションデータとGaiaデータとの比較から棒状構造のパターン速度を観測的に制限する論文を出版することができた (Kawata, Baba et al. 2021)。
これらを成果を発展させるため、星の年齢分布に加え、化学進化の観点から棒状構造形成進化を観測的に制限すべく、化学進化を考慮したASURAコードによる天の川銀河シミュレーションを実行中である。特にBaba et al. (2022)では1つのモデルのみの計算結果であったが、現在、バルジ質量を変えた複数のモデルのシミュレーションを実行中である。これにより、より広いパラメータ空間での計算結果に基づき、棒状構造形成時期の推定法の考案へと発展させられると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 2021度の成果を発展させるため、モデルパラメータを変えたシミュレーションを実行中である。これにより、より広いパラメータ空間での計算結果に基づき、棒状構造形成時期の推定法の考案へと発展させられると期待される。 (2) Gaia DR3データが公開されるため、棒状構造の力学パラメーターに加え、渦状腕の動力学パラメーターの推定もシミュレーションデータとの比較により取り組む。 (3) 棒状構造の減速過程を観測的に制限するため、減速する棒状構造のモデルを構築し、数値シミュレーションを行う。特に中心核バルジ領域の星形成史や、年齢のことなる星の空間・速度分布と棒状構造の減速史の関係を定量的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ蔓延の影響で、国内外の研究会がオンラインとなり、旅費の出費が全くなくなった影響が大きい。一方で、シミュレーションデータが膨大に増えたため、繰り越した研究費の一部は、データ保存用のストレージ購入や解析に必要な計算機資源の購入に充てることとする。
次年度は、イギリスおよびアメリカの研究協力者の来日のための渡航費として使用して、研究計画を進める。また、研究代表者・分担者の学会・研究会での成果発表のための旅費としても使用する。その他、計算機周辺機器および研究資料(専門書など)の購入に研究費を充てる予定である。
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