研究課題/領域番号 |
21K03635
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
磯部 直樹 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (80360725)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 宇宙ジェット / 粒子加速 / 乱流 / 活動銀河中心核 / ホットスポット / 赤外線観測 / サブミリ波観測 |
研究実績の概要 |
活動銀河中心核が噴出する相対論的ジェットは宇宙最大の粒子加速器であり、最高エネルギー宇宙線の数少ない起源候補天体である。ジェットにおける粒子加速機構として、一般的には衝撃波加速が幅広く導入されているが、最高エネルギー宇宙線の加速機構として必ずしも決着を得たわけではない。一方で、ジェットは流体不安定性を通じて、ほぼ確実に磁気乱流を生じる。この磁気乱流は、効率の良い粒子加速機構として機能することが理論的に予言されており、衝撃波加速よりもハードなスペクトルを生成することから、その重要度は高い。しかし、乱流加速の観測的な証拠は、いまだに見つかっていない。 本研究では、乱流加速のスペクトルがハードなために、その放射の強度が赤外線・サブミリ波の帯域で衝撃波加速の放射の強度を上回る可能性がある点に着目した。そこで、これまでジェット研究にほとんど活用されなかった赤外線・サブミリ波による系統的な観測で、乱流加速の証拠を探査することを目指している。 初年度の研究として、ジェットを噴出する活動銀河中心核Cygnus Aのジェット終端衝撃波であるホットスポットを対象として選択した。そして、遠赤外線観測衛星Herschelの観測データを用いて、Cygnus A のホットポットから遠赤外線放射を発見した。これは、遠赤外線が検出されたホットスポットとしては2例目である。しかし、その遠赤外線スペクトルをシンクロトロン電波のスペクトルと比較したところ、衝撃波加速によって説明できることがわかり、有意な乱流加速の証拠は得られなかった。一方で、遠赤外線スペクトルにシンクロトロ冷却によって生じる折れ曲がりを発見することができた。これによって、ホットスポットにおける粒子加速の最重要パラメタの一つである磁場強度を、精密に測定することに成功した。これらの成果は、研究協力者を主著者とする査読論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、赤外線・サブミリ波観測によるジェットで乱流加速の系統的な探査を、二つの手法によって推進しつつある。 手法1として、遠赤外線観測衛星Herschelで乱流加速による遠赤外線スペクトルの超過成分が最初に示唆された活動銀河中心核 Pictor A の西ホットスポットに対して、ミリ波・サブミリ波干渉計ALMAを用いた高解像度の観測を行う。これによって、西ホットスポットの中の100 パーセクスケール(この天体の画像上では100ミリ秒角に対応)のサブ構造が乱流加速の現場であることを特定する。この手法の第一歩として、乱流加速の兆候を高い有意度で検出するための観測提案が、ALMA Cycle 8で採択された。Priority Cでの採択のため、Cycle 8の期間中に観測が行われない可能性もあるが、手法1の遂行にとって、間違いなく大きな進展である。 手法2として、Pictor Aの西ホットスポットで発見された赤外線帯域でのスペクトルの超過成分の観測を、活動銀河中心核ジェットに付随するホットスポット・ノット・ローブなどの領域に幅広く適用し、乱流加速の一般性を検証することである。そのために、Herschel, Spitzer, WISEなどの遠・中間赤外線観測衛星の観測データを徹底的に探査しつつある。その第一歩として得られた成果が活動銀河中心核Cygnus Aのホットスポットの研究成果であり、これは査読論文として報告することができた。今後も、この手法を幅広く適用していく予定である。 一方、過去の遠・中間赤外線観測衛星の観測は、本研究に最適な状態では行われてこなかったため、それが研究上の制約になることを、強く認識し始めた。そこで、2021年に打ち上げが成功したアメリカのジェイムズウエッブ宇宙望遠鏡を用いて系統的な観測を行うこと計画している。現在は、そのためのノウハウを順調に蓄積している。
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今後の研究の推進方策 |
手法1について、ALMA Cycle 8において採択された活動銀河中心核 Pictor A の西ホットスポットの観測が実行された場合には、そのデータを用いて乱流加速による遠赤外線スペクトルの超過成分に関する確証を得る。また、観測が行われるかどうかにかかわらず、これ以降のALMAの提案機会に対して、Pictor Aの西ホットスポットの高解像度観測の提案を継続的に行う。これによって、西ホットスポットの中の100パーセクスケールのサブ構造が乱流加速の現場かどうか検証を試みる。このために、ALMAの観測に詳しい研究者との議論を、着々と進めている。実際に、2022年4月に行われたALMA Cycle 9には観測提案を行った。その審査結果は、2022年の8月に公開される予定である。 手法2について、近傍のジェットを噴出する活動銀河中心核に付随するジェットのHerschel, Spitzer, WISEなどの遠・中間赤外線観測衛星の観測データの基礎調査を進めでいる。すでに、Pictor A, Cygnus A につづく研究対象として、いくつかの候補天体をリストアップしている。次年度は、これらの天体の赤外線データの本格的な解析に着手する。 過去の情報によると、ジェイムズウエッブ宇宙望遠鏡の次の観測提案の機会は打ち上げ後13か月とされてきた。この予定にしたがうと、2023年1月に次の提案機会があると想定される。これに向けて、活動銀河中心核ジェットにともなう乱流加速の研究のために、系統的な観測提案を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、COVID-19 による社会状況を考慮して、学会・研究会や研究打ち合わせのなどへの実体での参加を、意図的に自粛した。そのために、主に旅費に関する計画と使用額との間に、有意な差異が生じた。2022年度はCOVID-19の状況が2021年度よりは改善されることを想定しており、研究会や打ち合わせへの実体参加を計画している。
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