太陽風が如何にして加速されるかは未だ十分解明されていない重要課題である。これまでの研究から、太陽風の速度Vと密度ゆらぎΔNeの間にはΔNe∝V^αで記述される関係があることが知られており、この関係式のべき指数αは太陽風加速機構を探るための重要な手掛かりとなる。太陽風加速に寄与するΔNeは磁気波動によって生じた微細な空間スケールの密度ゆらぎであり、この特性を飛翔体観測で探ることは時間分解能の制約から困難であった。しかし、微細な太陽風密度ゆらぎによって発生する天体電波源の惑星間空間シンチレーション(IPS)を観測すれば、VとΔNeの関係を詳細に調査することができる。本研究では、太陽風加速機構に関する新たな知見の獲得を目指してIPS観測データを使って次の2つの解析を実施し、V―ΔNe関係式を決定した;1)IPS観測で得られた速度データのみを使った計算機トモグラフィー(CAT)解析の結果を飛翔体観測結果に最適化することで、V―ΔNe関係式を決定する、2)IPS観測で得られる速度とg値データを同時にCAT解析することでV―ΔNe関係式を求める。解析1からは、αが太陽活動周期毎に異なっていることが判った。一方、解析2のために豊川アンテナの受信機の校正を行ったところ、受信機の長期変動は無視できることを確認した。その結果をもとにg値データを作成し、解析2からV-ΔNe関係式を求めたところ、解析1で求めたαと食い違いがあることが判明した。しかし、この違いは太陽活動の低下に伴う低密度かつ低速太陽風の増加で説明でき、解析1で明らかになったαの変化と矛盾がないことが結論された。太陽風密度乱流の特性が太陽活動ともに変化することは、太陽風加速機構を解明する上で重要な情報である。さらに本研究で利用可能になったIPS観測データを使って太陽風速度の全球的分布や太陽風擾乱の発生率の長期変動を明らかにした。
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