昨年度までにMgを含む有機金属化合物 (Mg-MOC)を検出した隕石試料について,試料の不均一性を考慮し,さらに複数の隕石フラグメントをDESI-HRMS (MeOHスプレー溶媒)を用いて分析した。Nogoya隕石,Tagish Lake隕石では,Mg-MOCは,マトリックスのMg-rich 含水ケイ酸塩に富む領域に集中し,無水ケイ酸塩が存在する領域から検出されなかった。また,Murchison隕石ではMg-MOCがほぼ検出されないフラグメントが見られ,Mg-MOCが検出されたフラグメントより,炭酸塩やマグネタイト,硫化鉄の存在量が非常に少なかった。これらの結果は,Mg-MOCは水質変質で形成したことを示唆する。昨年度,水質変質と熱変成を経験したAllende隕石のMeOH抽出画分からMg-MOC (特にCHOMg化合物)が豊富に検出されており,隕石の熱変成や水質変質の程度と相関のある系列が見出されている。一方,DESI-HRMSの結果,Mg-MOCの系列により空間分布に大きな差は見られなかった。ここから,多様なMg-MOC系列の大部分は水質変質で形成したが,化学構造によって熱・水への安定性が異なり,その後の水や熱の作用で分解,もしくは有機物の高分子化などその他の反応で消費された可能性がある。また,Mg-MOC全体の存在量は隕石不溶性有機物 (IOM)の存在量と一部正の相関が見られるが,Mg-MOCの系列によって相関は明確でなく,水質変質時の隕石有機物の化学進化に対するMg-MOCの作用は一様でないことを示す。しかし,Allende隕石に多いMg-MOC系列は熱的に安定であったと考えられ,少なくとも,一部のMg-MOC系列の形成により,隕石有機物が揮発・分解しにくく,安定に化学進化・保存された可能性を示唆する。本結果は,学会発表および論文等での成果発表を予定している。
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