研究課題
本研究では、巨大衝突ステージの惑星形成を破壊を考慮して以下の手順 (i)と手順(ii) で調べている。手順(i) 巨大衝突を模擬したSPH 法を用いた衝突シミュレーションを様々なパラメータで行い衝突モデルを構築する。衝突破片の進化を考える上 で重要なのは破片の総質量と破片の最大サイズで ある。国立天文台のスーパーコンピュータXC50を利用して衝突角度、衝突体の質量比、衝突速度をパラメータとして、多くのシミュレーションを行った。原始惑星衝突の結果、合体して多くの質量が一つの天体に集合する「合体衝突」、合体せずに2体の天体がほとんどの質量を保持する「すれちがい衝突」、破壊が起きて数多くの小さな天体ができる「破壊的衝突」の3種類の結果が得られることがわかった。また、衝突における衝撃波エネルギーの大きさを評価することで、これらの3種の結果を包括的に表現する解析的な表現が可能であることも示した。手順(ii)原始惑星が放出した粒子を粒子間の評価しながら、軌道・衝突進化を同時に計算するN体計算を行う。(i)のシミュレーションにより巨大衝突時は蒸発が起きることが示された。この蒸気は衝突後の膨張に伴い再凝縮し、1cmサイズ程度の粒子を大量に放出する。この粒子の衝突・軌道シミュレーションにより、この粒子は年単位で明るさや形状が進化するデブリ円盤を形成することがわかった。短時間で明るさが変化するデブリ円盤は、天文観測でも発見されており、説明できる可能性がある。また、長周期の軌道進化は惑星の質量や軌道にも影響を及ぼす可能性が高い。
3: やや遅れている
本研究課題の手順(i)と(ii)を並行して実施してきた。しかし、最終的な手順(ii)の実施には、手順(i)の結果を使用する。手順(i)の結果の導出に時間がかかったために、手順(i)の結果を使用する手順(ii)の研究の実施が遅れている。手順(i)では、巨大衝突を模擬したシミュレーションの結果を理解するために、衝突に関するパラメータ空間を増やし徹底的にシミュレーションをおこなってきた。その結果、全てのパラメータの依存性を理解できる解析的な式を導出できた。この解析式は素晴らしく、手順(ii)のN体シミュレーションに使用できるだけでなく、惑星系におけるさまざまなスケールでの衝突結果を包括的に理解する解析的なスキームにつながる発展性のある結果である。この結果を導出するために、時間がかかり過ぎてしまった。一方、手順(ii)では、その後の破壊を考慮したN体シミュレーションを行うが、手順(i)の結果を使用したシミュレーションコードの開発が改良が遅れている。これまでも手順(ii)では手順(i)の結果によらない部分の改良は進めてきた。例えば、破壊を考慮したN体シミュレーションには短い時間の進化には3次元的な効果が重要になることを突き止め、その対処の改良は終わっている。しかし、手順(i)の結果を使用した衝突シミュレーションの結果を実装したN体シミュレーションについては、手順(i)の結果が得られていなかったため取り掛かれていなかった。
本研究で行ってきた手順(i)と(ii)を以下のように、進めていく。手順(i)では、これまでに得られた巨大衝突を模擬したシミュレーションの結果と解析式を論文としてまとめ投稿する。一方、手順(ii)では、手順(i)で得られた解析式を用いて、破壊を考慮したN体シミュレーションを行えるようにコードの改良を行う。このコードの改良ができなかったため今年度は購入を見合わせた高精度計算機を購入する。そして、この計算機を用いて手順(ii)のシミュレーションをさまざまなパラメータについて徹底的に調べる。破片の振る舞いは、短期的には破片の作る円盤の明るさや形状を変化させるため、観測により検証可能な天文学的に重要な課題である。一方、長周期の進化は巨大衝突を起こした地球型惑星がどのような軌道に落ち着くかに関係する惑星形成論的に重要な問題である。そこで、まずは詳細な空間解像度が必要だが長い時間積分が必要でない短期のシミュレーションを行う。手順(i)で導出したモデルが手順(ii)のシミュレーションで問題を起こさないかチェックするとともに、巨大衝突によって作られる破片の円盤の明るさの進化などを調べる。短周期シミュレーションにより十分にシミュレーションに信用性ができたら、長周期のシミュレーションを実施する。 長周期のシミュレーションにより、巨大衝突の衝突破片が惑星にどのような影響を及ぼすかについて調べる。その結果、巨大衝突ステージの結果、どのような質量や軌道の地球型惑星が形成されるか解明する。
前年度に手順(ii)のシミュレーション用のコードを確定させ、N体シミュレーション用の計算用のコンピュータの購入を予定していた。しかし,手順(i)の衝突シミュレーションの結果をまとめることを優先したため、手順(ii)のN体シミュレーションに衝突シミュレーションの結果を実装できなかった。そのため、N体シミュレーション計算用のコンピュータの購入を見合わせた。そのために次年度使用額が生じた。今年度に手順(i)の衝突シミュレーションに基づく衝突モデルが完成したため、この結果を手順(ii)のN体シミュレーションコードに実装できる。この手順(ii)のN体シミュレーションの実施ために、次年度にコンピュータを購入する予定である.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
The Astrophysical Journal
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https://www.astro-th.phys.nagoya-u.ac.jp/~hkobayas/hp_main/research_j.html