研究実績の概要 |
2021 年度は, 本研究の基礎であり根幹をなす金星大気放射モデルの構築に取り組んだ. このモデルは, 金星大気のエネルギー収支を特徴づける, 全球を覆う雲の効果と厚い大気による強力な温室効果を正確に扱い, かつ十分な速度で計算できるものとすることを目指した. その目的を達成するため, 高い精度で放射伝達を計算できるラインバイライン (line-by-line) モデルと, それを基に計算量を減らして高速に計算できる k 分布 (k-distribution) モデルの二つを構築した. 金星下層大気の条件では, 地球大気研究において無視しても差し支えない吸収線が重要となるため, 計算に用いる吸収線の光学パラメータは, 高温条件での吸収線データベース HITEMP のものを用いた. 同時に, 厚い大気において重要となるのは連続吸収を取り入れることであるが, これに関しては, 近年実施されてきた実験室測定の結果を採用した. 構築したラインバイラインモデルは, 計算結果を, プローブや周回機による金星大気の観測結果と比較することで検証した. 計算された放射フラックスは, 太陽放射に対しては観測された高度分布とよく合っており, 惑星放射に関しては観測された範囲に概ね収まっている. また, ラインバイラインモデルの計算から得られた吸収係数を処理することで構築した k 分布モデルは, 計算結果をラインバイラインモデルの計算結果と比べることで精度を検証している. 本研究で構築した k 分布モデルは, これまでに他グループによって構築されてきた金星大気放射伝達モデルと比べて同程度以上の精度を保持していることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021 年度に取り組んだモデルの構築は概ね順調に進展した. モデルでは, 気体の吸収線パラメータなどのデータが必要である. それらは, 整備され広く公開されているデータベースから入手するのに加えて, 実験室測定のデータを保有する研究者から入手した. データを他研究者から入手できたことは研究の円滑な進展に大きく寄与した. また, モデルの構築の際には, 付随して多数のテスト計算を行う必要があり, それに伴って結果を保存するための相応の記憶装置が必要となる. テスト計算は主に学内の計算機を利用することで円滑に実施することができ, 記憶装置は本研究課題の補助金によって購入したことで余裕を持って研究に取り組むことができた. これら研究環境の整備も研究の進展に大きな効果があった.
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