研究実績の概要 |
2022 年度は, 高い精度で放射伝達を計算できるラインバイライン (line-by-line) 法と, 計算量を減らして高速に計算できる k 分布 (k-distribution) 法の二つの方法に基づく金星大気放射モデルの構築に, 2021 年度に引き続いて取り組んだ. また, 構築した放射モデルを用いて鉛直一次元放射対流平衡構造を求めるモデルの構築にも取り組んだ. 放射モデルの構築に関しては, 2021 年度までに一通りの作業を終了していたものの, ラインバイライン法で得られた結果を加工して k 分布法に基づく放射計算用パラメータを決定する際の決定方法に主観的な部分を残していた. 2022 年度にはその点を改善し, 定量的な指標に基づいて k 分布法に基づくパラメータを決定することを可能とした. 鉛直一次元放射対流平衡を計算するモデルの構築に関しては, 本研究の注目点である大気の熱力学的特性の扱いに注意して行った. 金星表層環境は高温・高圧の条件にあり, 理想気体近似が十分な精度では成り立っていないことが知られている. このような条件でも正確な計算を可能とするために, 実在気体の状態方程式を用いてモデルを構築した. 実在気体の状態方程式は, ヘルムホルツエネルギーに基づく定式がなされているものを採用した. このようにして構築したモデルによって得られる放射対流平衡構造が, 金星の雲が存在する領域で性的中立となり, その上下に安定層が存在するといった, 観測によって知られている実際の金星大気と定性的に同様の特徴を持っていることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022 年度に取り組んだ放射モデルの構築と鉛直一次元放射対流平衡モデルの構築は概ね順調に進展した. モデルの構築の際に必要となる多数のテスト計算は, 学内の計算機を利用することで円滑に実施でき, 計算結果は 2021 年度に本研究課題の補助金によって購入した記憶装置を用いることで余裕を持って保存することができている. また, これまでに放射モデルの構築については, 本研究課題の補助金を用いて論文として 2022 年度に出版することができた. 出版に向けた査読者とのやり取りの中で得た有益なコメントによって, モデルの構築方法が定量的なものとして確立できたことは本研究の進展において重要であった.
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今後の研究の推進方策 |
2022 年度までに, 金星大気の放射モデルを構築し, 金星大気の鉛直一次元放射対流平衡モデルの構築に順調に取り組むことができたため, 2023 年度には, 鉛直一次元放射対流平衡モデルを用いた数値実験を多数実施し, 金星大気の熱構造がどのように成り立っているのかを明らかにすることを目指す.
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