研究課題
本研究は、月面地球照を観測し、地球のホモキラリティ円偏光を測定することを目指す。本年度は、以下の2件の研究項目を実施した。(0) パイロット研究: 地球照の直線偏光度と地球の表面種別との相関関係調査、(1) 高精度の円偏光観測装置の開発。研究項目(0)は、後に予定している地球照の円偏光観測・解析を、直線偏光観測・解析に置き換えたものにあたる。地球照の近赤外直線偏光度データを解析し、地球の直線偏光度が「地球反斜面に占める海の被覆率」に対して正の相関を示すことを発見した。この結果は「海を持つ太陽系外惑星」の探査に直線偏光観測が有用であることを示唆するものであり、地球外生命探査上も重要な成果である。研究項目(1)は、目標とする「月面地球照を観測によるホモキラリティ円偏光の測定」を実現するために必要な観測装置Polarimeter for Optical Precise Observations (POPO) を開発するものである。「高速位相変調」という技法を用いることで高精度の(直線および円)偏光観測を可能にする。さらに、高速カメラを導入することで、これまでの高速位相変調型装置にはなかった「撮像機能」を持たせることを目指す。本年度は、第一段階の装置、すなわち「直線偏光度のみ測定可能(円偏光度測定機能なし)で、非撮像型の装置」としてPOPOを組み上げた。2021 年 9 月に POPO を兵庫県立大学「2mなゆた望遠鏡」のカセグレン焦点に搭載し、天体の初観測に成功した。4.3等 (Rバンド) の無偏光標準星を約10分間連続観測したところ、ストークスパラメータ q または u(直線偏光の度合いを表すパラメータ)の標準誤差が 20 ppm 程度であった。ほぼ想定通りの精度である。また、POPOの撮像装置化に向けて、高速カメラ(CMOSカメラ)の機種選定・入手・仮取り付けを行った。
2: おおむね順調に進展している
研究項目 (0) を完了した。研究項目 (1) では、第一段階装置を開発した。いずれも計画通りである。
次年度以降、当面は研究項目 (1)「高精度の円偏光観測装置の開発」に注力する。すでに第一段階の「直線偏光度のみ測定可能(円偏光度測定機能なし)で、非撮像型の装置」を開発したので、「円偏光測定機能の追加」および「撮像装置化」の改良を行う。当初は前者を先に着手する計画であったが、計画を変更し後者から着手する。撮像装置化の方が開発における検討項目や作業量が多いため、早めに着手するのが好ましいと判断した。撮像装置化において、POPO内の2系統の光路に対応して2個の高速カメラが必要となるが、まずは高速カメラ1個を取り付け、1系統のみを撮像光学系とする。1系統の撮像化の結果を参考に、残るもう1系統の撮像化を検討する。円偏光測定機能の追加するには、POPO光学系の最前面(望遠鏡側)に1/4波長板を挿入/待避する機構を設置する。POPOが完成したのち、POPOを「なゆた望遠鏡」に取り付け、残る研究項目 (2) 「月面地球照の円偏光観測」、および (3) 「太陽系内惑星の円偏光観測」を実施する。
本年度は暫定的に施設共用PCを使って観測装置を制御し、制御PCの新規購入を先送りしたため。共用PCを長期間占有することはできない見込みであり、次年度以降にPCを新規購入することを想定している。
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Astronomy & Astrophysics
巻: 653 ページ: -
10.1051/0004-6361/202039331