研究課題/領域番号 |
21K03649
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
千秋 博紀 千葉工業大学, 惑星探査研究センター, 主席研究員 (30359202)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小惑星 / 熱進化 / 数値計算 / 小惑星探査 / 熱赤外観測 |
研究実績の概要 |
本研究は小惑星の熱進化を,数値シミュレーションによって求め,天体観測や惑星探査によって求められる結果と直接比較できるようにすることを目的としている. 大気を持たない小惑星は,太陽光を熱源とし,黒体輻射で宇宙空間に熱を捨てることで熱進化する.従来の研究では主に,天体の公転軌道,自転周期,自転軸の傾きを考慮して熱進化の再現を試みてきた.しかし「はやぶさ2」の観測結果は,従来のモデルでは説明がつかない.そこで本研究では,天体表面の微地形(凹凸)に着目し,表面の凹凸が熱進化と,見た目温度に与える影響を数値計算によって求めている. 本年度は主に,数値計算コードの開発と,計算を実行するための計算機システムの構築に注力した. 数値計算コードは計算速度やメモリの取り方など,最適化のために工夫できる余地がまだ残っているが,得られる結果はおおむね正しそうである.計算機システムの構築については,予算の減額を受けて大幅に見直し,部品を購入して自作することとした.その結果,最大160CPUから成る計算機群を作成することができた.ただし自作機のため,性能の安定性や発熱対策などに不安があり,今後もメンテナンスが必要である.一方,計算結果の保存に必要な大規模ストレージは,別の研究所の設備をお借りして仮のものを構築した.今後,通信技術(速度)や半導体部品の価格の状況を見て購入を検討する. 研究成果は,論文を投稿し受理された.投稿は本年度中に行ったが,受理までに時間を要し,会計処理上は翌年度の成果となってしまった.このほか,研究代表者が主著者ではないが,本研究で得られた知見が生かされた論文が出版されている.なお,受理された論文は 2022年の Ared Cezairliyan 論文賞の選考対象となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算コードの開発において特に技術的な困難となっていたのは,表面の凹凸によって互いに向かい合う面の間で熱輻射によってエネルギーのやり取りが行われる影響を,安定して評価する部分である.太陽光入射に比べると影響は小さいため,時間・空間分解能を高くする必要があるが,一方で空間分解能を上げ過ぎると数値計算の安定性が損なわれる.このバランスがカギとなる.試行錯誤の結果,本研究で開発した計算コードは安定して結果を得られるようになった.ただし,コードの最適化と適用可能対象の拡大(一般化)については,まだ工夫の余地が残されている.これは2022年度に取り組む. 結果の一部は論文としてまとめ,発表した.ただし,査読手続きが年度を超えてしまったため,会計処理上は翌年度の成果である. 論文をまとめる作業と並行して,「はやぶさ2」熱赤外カメラの活動を通じて,小惑星の赤外線観測を行っている天文学者との繋がりを得た.天文学者との情報交換によって研究の発展性を探る作業は3年目に予定していたが,前倒しして開始できる感触を得た.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,開発した計算コードの最適化と汎用化を行う.また,構築した計算機システムはメンテナンスが必要である.これらの作業を進めつつ,数値計算結果を発表してゆく. 本年度の研究から1秒スケールの解像度を持ちつつ,公転に伴う温度変化の影響(季節変化)を取り入れる事の重要性を再確認した.このような系のデータの創出と解析を重点的に行い,成果として発表してゆく. さらに,これまでの研究を足掛かりに他の探査計画とのつながりを持つことができた.とくに「はやぶさ2」搭載熱赤外カメラの後継機と位置づけられる,二重小惑星探査計画 Hera 搭載熱赤外カメラのチームに参加したこと,またこれらの計画を通じて地上観測を行っている天文学者との繋がりを得られたため,天文観測結果との比較についても検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算は計算環境の構築,学会等での成果発表,論文執筆に使う予定であった,このうち,学会等での成果発表は新型コロナウイルス感染症流行の影響があり,資金は使われなかった.論文は査読手続きが年度を超えたため,次年度の予算で使用する. 計算環境の構築は,予算減額を受けて当初予定の通りには進めなかった.方針を大幅に見直し,計算機を自作することとし,時間はかかったが,当初想定していた計算能力は達成できた.一方,データを保存するためのストレージは予算減額のため購入できず,他所の研究所の設備をお借りして仮のものを構築した.今後は市場状況を見つつ,占有できるストレージの導入を引き続き検討する.
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