研究課題/領域番号 |
21K03660
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
根田 昌典 京都大学, 理学研究科, 助教 (10273434)
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研究分担者 |
馬場 康之 京都大学, 防災研究所, 准教授 (30283675)
鈴木 直弥 近畿大学, 理工学部, 教授 (40422985)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大気海洋境界層 / 対数分布則 / 風速 / うねり / 風洞水槽実験 |
研究実績の概要 |
本研究は、大気海洋相互作用の解析と予測に不可欠な条件である大気海洋間のエネルギー交換量のパラメタリゼーションを再検討する。境界層内の海上風鉛直構造の対数相似則がうねりの存在下で成立しない可能性を、田辺湾における観測塔を利用した長期の観測によって実証することを目指している。並行して風洞水槽を用いた理想的な環境での再現実験を行い、観測から得られた仮説を検証する。 初年度は新たな観測システムの構築とその試験的運用を行った。風速観測システムは全く新たに作成し、設置には危険が伴うため研究グループ内で入念に設計した。試験観測は10月22日から11月19日までの約1か月間実施した。初年度の試験観測の目的は観測システムの構築と課題の抽出、並びに試験的なデータによって研究計画でターゲットとしている風速の対数分布則からの乖離現象が観測可能であるかどうかの確認である。観測システムの持続性や設置回収時の作業量、機器取付精度などの点について次年度からの観測に向けた改善点を得ることができた。得られた風速観測値から、取り付け情報をもとに平均風の水平成分を得ることに成功した。観測中に下層の風速計の数値が上層の風速計の数値を上回るデータを得ることができた。波浪の条件などはこれから検討するが、本研究の検討課題が実証可能であることを示す重要な結果が得られたと考えている。 一方、風洞水槽を使った検証実験を行うための試験的な室内実験を実施した。近畿大学において、既存の風波水槽を用いて風波と同一方向の成分波混在条件および表層流混在条件を再現することを試みた。それぞれの条件下で風速鉛直分布を試験的に測定した結果、風波のみと比べて成分波および表層流が混在することで気側境界層内の風速鉛直分布に相違が生じている様子が観測された。この傾向は、特に低風速時に顕著であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおむね計画段階で想定した通りに進んでいる。研究初年度においては研究計画に沿って実地観測と風洞水槽を用いた室内検証実験のそれぞれの実施準備に取り組んだ。観測面では、波浪の存在下における海上風鉛直構造を観測するためのシステムの構築とその試験観測を実施した。観測実施のために必要な精度を持った超音波風速計を購入したが、半導体の不足によって予定よりも納入が遅れたため、田辺湾における試験観測は10月20日から約1か月間行った。田辺中島高潮観測塔への機器の設置は比較的大規模なものとなり、設置方法について入念に検討した結果、試験観測は大気海洋境界層の下層部分において2台の風速計を設置することとした。この設置作業において、風速計設置枠組みの強度と重量の問題、風速計から記録室へのケーブル設置の問題、設置アラインメントの正確さの問題等、設置に関する技術的な問題を確認し、次年度の観測への改善を計画した。設置状態の改善の必要はあるものの、試験観測における2台の風速計を用いての時間平均風速の観測については十分な精度で取得可能であることが分かった。特に、下層の風速の方が大きい状態が複数回観測されたことは、海上の大気海洋境界層の風速分布が対数則から乖離するという本研究の問題意識が現実的に実証可能であることを示す。 また、風洞水槽を使った検証実験を行うための試験的な室内実験を実施した。近畿大学において、既存の風波水槽を用いて風波と同一方向の成分波混在条件および表層流混在条件を再現することを試みた。それぞれの条件下で風速鉛直分布を試験的に測定した結果、風波のみと比べて成分波および表層流が混在することで気側境界層内の風速鉛直分布に相違が生じている様子が観測された。この傾向は、特に低風速時に顕著であることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究は風速計の納期が遅れたこととそれによる試験観測の遅れなどを除けばおおむね計画通りの研究を実施することができた。風洞水槽実験では、風浪と表層流の混在実験の試験を実施することで、うねりと風浪が同一方向の場合に近い状況を作ることを試みた。 次年度以降は現場観測と風洞実験の実験条件を連動させて、現場観測から得られた状況に近い条件での風洞水槽実験を実施していく計画である。 現場観測においては、試験観測の課題と予備的な観測成果を受けて、海上4高度における水平風速観測を実施する。観測システムに必要な変更を加え、梅雨期、晩夏-初秋、晩秋-初冬の3時期に観測を実施する計画である。それぞれの観測期間は約1か月であり、季節的な特徴を含め様々な条件下での観測データを収集する。田辺湾にうねりが入りやすい初秋の観測では風速計の方向を南東-南西向きに設置することで、うねりと海上風が同一方向である条件下での観測事例を取得する計画である。 取得した風速データは、観測塔での通常観測で得られる波浪情報、25m高度での3次元風速、水温や気温といった境界層パラメターとともに解析し、風速構造の変化と波浪情報との関係について検証する。これらを周辺条件によって分類することで風洞水槽実験での条件設定に反映させる。観測データから得られた作業仮説はこのようにして室内実験において検証する。風洞水槽実験は引き続きうねりと風浪の共存条件での再現可能性を検討し、平均流条件とともに理想的な条件設定下での検証を可能にする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は観測備品の納品の遅れやCOVID-19の影響による移動の制限などによって、旅費の使用額が予定よりも少なくなった。一方、物品費の総額についてはほぼ予算通りであった。ただし、研究代表者が執行した観測消耗品については当初予定よりも多くなった。これは新しい観測システムを作成するための部品が、検討の結果として予想以上に増加したためである。当初予定では人件費は計上していなかったが、観測作業の安全性を確保するために観測作業を統括する分担者予算で補助人員を確保したために人件費が生じた。また、風洞水槽実験については、風洞利用の優先順位の観点から当初予定よりも少ない実験ケースとなったため、執行額は少なくなった。 これらによって生じた翌年度分の使用額は以下のように執行する予定である。風洞実験に関しては、分担者が実験ケースを増加させる予定であることから基本的には当初予定通りの執行内訳として施行予定である。一方、初年度実績を鑑みて観測消耗品の必要性が増加したことから、代表者の翌年度使用分については観測システムの整備などに使用予定である。これによって信頼できる観測データの取得に成功することを目指す。
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