研究課題/領域番号 |
21K03660
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
根田 昌典 京都大学, 理学研究科, 助教 (10273434)
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研究分担者 |
馬場 康之 京都大学, 防災研究所, 准教授 (30283675)
鈴木 直弥 近畿大学, 理工学部, 教授 (40422985)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 波浪 / 大気海洋境界層 / 対数分布則 / うねり |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度に実施した試験観測から得られた結果をより詳細に解析するとともに、試験観測の結果を受けて観測設置システムを改良し、6月17日から7月21日まで和歌山県田辺湾にある田辺中島高潮観測塔(京都大学防災研究所)において冗長観測を実施することに成功した。風速計高度を4高度に増やし、観測塔頂上に設置された超音波風速計を含めて5高度で風速を計測した。データのトリミングに関しては、近畿大学の実施した数値シミュレーションによって観測塔の影響を評価し、塔の構造物の影響がないと考えられるデータのみを用いた。これらは複数高度での観測であることから、傾度法に基づく解析を行った。試験観測と今年度実施した観測を通じて、うねりと海上風が同方向の場合と逆方向の場合のデータを得ることができた。解析の結果、うねりと同方向の場合は下層風のシアが小さくなり、ねりと海上風が逆方向の場合、下層風のシアが大きくなった。その結果、上層風データと下層風データを用いた摩擦速度に明瞭な差異が認められた。うねりの観測されない状態では、傾度法に基づく摩擦速度は渦相関法によって観測された摩擦速度よりも幾分大きめに計算される傾向があった。さらに、うねりの方向が海上風と鈍角をなす場合では、下層風の方向がうねりの方向に屈折しており、実験室では得られない観測データを得た。これらの内容の一部は日本海洋学会秋季大会などで公表した。一方、風波水槽を用いた実験では風波と同一方向の成分波(うねり)と表層流を生成した条件で調査した結果、成分波および表層流が混在することで一様風速領域および境界層内の風速鉛直分布に相違が生じていることが示され、実地観測の結果と整合的であることが確認できた。この結果は海岸工学講演会などで公表する予定である。年度末には2度目の風速計設置を行い、現在実地観測を実行している最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はおおむね計画段階で想定した順番で進められているが、天候(観測)と風波水槽の破損によって、当初予定よりも少し遅れている。研究初年度における試験観測の結果と風洞水槽における予備的実験の結果はおおむね良好であり、それらの結果を検討して今年度の本格観測を遂行し、水槽実験で実際にデータを取得することに取り組んだ。 昨年の試験観測の知見と分担者による数値シミュレーションによる塔構造物の影響評価から、4台の風速計をほぼ同一位置で異なる高度に配置する設置治具の設計を再検討した。試験観測における設置治具の堅牢性と冗長性、また設置のための作業負荷を分担者(馬場)と詳細に検討して、6月から本格観測実験を開始することができた。台風による破損をさけるために7月中旬で一旦終了した。秋季から冬季にかけての観測データの取得のために10月に気温計を新たに加えた冗長観測を開始する予定であったが、天候条件と学事日程の兼ね合いで最終的に設置することができたのは3月20日であった。この結果、目的としていた冬季の観測は実施することができず、計画に遅れが生じた。一方、並行して行っている6月期の本格観測のデータ解析は順調であり、風と角度のあるうねりの存在下での観測条件で、下層風の減速とともにうねりの影響と考えられる下層風の屈折を明らかにできた。これは風波水槽実験では得られない成果であり、実海域の観測だからこそ得られたものである。 一方、風波水槽実験は風波と同一方向の成分波および表層流を生成し、風速鉛直分布を測定した結果、成分波および表層流が混在することで一様風速領域および境界層内の風速鉛直分布に相違が生じていることが示された。したがって成分波や表層流が混在する場合に対数分布則に影響をおよぼすことが示唆された。この結果と実観測データを相互参照する解析を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の観測については、年度末に2度目の本格観測を実施している最中であり、風波水槽実験においては年度内に修理を実施し、次年度における実験では定量的な結果を得ることができる状態に復帰させることができた。これまでの観測を通じて風速計設置のフレームの堅牢性(設置位置や角度の冗長性)が確認できたため、今年度の観測では中断期間に取り外す治具を少なくし、再設置の時間的コストを軽減する。これによって、風速計設置作業が天候によって中断するリスクを軽減することが期待できる。また、今回の設置では風速計を塔の西方向に設置することができたため、外洋から入射するうねりに対して順方向の風と逆方向の風の両方の環境での観測ができることが期待される。観測結果の解析において、傾度法で推定した摩擦速度が渦相関法に較べて大きく計算される傾向があるが、今年度までの観測では風速計高度での気温を計測することができていないという問題があった。今年度末に設置した観測では気温計を設置したことから、今後得られるデータについては安定度を考慮することができる。これらの問題を解決したうえで、解析を進めながら台風時期を除いて冗長的な観測データを得ることを計画している。一方、風波水槽実験の修理が完了したので、次年度実験では定量的な解析が可能となる。 これまで、新型コロナウイルス感染症の影響で、水槽実験の結果と観測データを組み合わせて解析するなどの連携がなかなかうまくいかなかった課題があるが、今年度は観測や実験に互いに立ち会うことによって、実験条件の設定条件などをデータの相互参照が可能なように調整していく。これまで得られた研究結果は貴重なものだと考えており、今年度中に観測報告や風波実験水槽実験の結果をもとにして原著論文を作成し、今年度中に登校することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者の旅費は予定よりも多かったが、昨年度から繰り越した旅費を使用することによって補填することができた。観測関係の消耗品については、昨年度の試験観測の結果を受けて設置治具を更新するなどの改良のために使用したため、研究開始前の計画よりは多く執行したが、同様に昨年度からの繰越額によって補填することができた。結果的に10万円程度の残額となった。また、風波水槽実験装置は近畿大学のほかの実験にも利用されており、一部故障した部分の修理に関しては別予算を充てることができたために今年度も分担者予算(鈴木)に大幅に執行額に残額が生じることとなった。 これらの残額を次年度に繰り越して計上し、研究最終年度として以下のように執行する予定である。風洞実験に関しては、水槽の修理が完了し、分担者が実験ケースを増加させる予定である。また、昨年度までは研究発表の機会が限られていたが、次年度には積極的に学会等での発表や論文投稿などによって執行する予定である。一方、代表者の翌年度使用分については観測システムの整備などに加え、論文の作成やHPの作成に使用し、年度内に一定の成果を公表する予定である。
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