研究課題/領域番号 |
21K03662
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
榎本 剛 京都大学, 防災研究所, 教授 (10358765)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | データ同化 / 変分法 / アンサンブル / 数値最適化 / へシアン / 自由度 / ニュートン法 |
研究実績の概要 |
変分法に基づくデータ同化は,コスト函数を反復して最小化することにより,観測される量と予報される量との関係が非線型であっても数値的に最適な解を求めることができる。変分法で非線型な観測を扱えることは,線型性を仮定するアンサンブルカルマンフィルタに対する利点である。 コスト函数の数値最適化には,様々な手法が提案されている。ニュートン法では,コスト函数の2階微分であるへシアンが必要となる。へシアンは自由度の2乗の大きさを持つ行列であり,気象学のように状態の自由度が大きい問題では計算機で扱うことが困難である。そこで,へシアンを近似した準ニュートン法や自由度の大きさのベクトルを用いる共軛勾配法が広く用いられている。 アンサンブル変分法の一つである最尤法アンサンブルフィルタでは,アンサンブル空間でへシアンを計算しコスト函数の形状を改善するための前処理に用いている。へシアンは,反復を開始する前に一度だけ計算され,数値最適化には共軛勾配法などが用いられる。 本研究では,アンサンブル変分法における自由度が状態に比較してはるかに小さいアンサンブルメンバの数であることに着目し,最尤法アンサンブルフィルタにおいてへシアンを前処理に用いず,ニュートン法を適用することを試みた。ニュートン法と組み合わせた最尤法アンサンブルフィルタでは,非線型観測に対する同化実験において,収束性の向上が認められ,少ない反復で収束した。また,非線型時間発展モデルにおいては,アンサンブルカルマンフィルタよりも解析精度が向上し,数値最適化の効果が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンサンブル変分法は,原理的には数値最適化により,非線型の観測に対しても数値最適化により精度が向上する。実際には,観測が非線型になるとコスト函数が2次ではなくなるため,勾配を用いた多くの最適化手法では収束性が悪化するため,収束性の向上が大きな課題である。ニュートン法は収束が速く,ステップ幅が1に近いという特徴があるが,問題サイズの制約から通常の変分法には適用されていなかった。ニュートン法を適用しアンサンブル変分法の課題である収束性が改善することを見出したことが2021年度の成果である。アンサンブル変分法の課題解決に向けて,手がかりが見つかったことから進捗は順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最適化にニュートン法を用いた最尤法アンサンブルフィルタについての研究成果を論文としてまとめる。2021年度に改良したデータ同化手法を適用する動径基底函数を用いたモデルの精度や計算性能について調査を行う。
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