研究課題/領域番号 |
21K03673
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
八田 真理子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), 副主任研究員 (00896110)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自動分析法の開発 / マイクロフロー法 / ケイ酸塩分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、野外調査・分析への適応力の高い船上自動分析手法を開発することが目的である。本年度は、塩分の違いによる分析結果への影響について詳しく評価した。塩分の違う試料(イオン交換水及び低栄養塩海水)で調整した検量線を比較し、得られた傾きから、塩分(マトリックス)の影響の有無を調べ、他の栄養塩(亜硝酸、硝酸、リン酸)と共に、Hatta et al (2021)で報告した。ケイ酸塩分析に関しては、それぞれの検量線の傾きにほとんど差はないことがわかった(分析精度3%以内)。一方、亜硝酸や硝酸は、その傾きに分析精度以上の差があるため、マトリックスの違う試料では、その化学反応速度が異なる可能性がある。 開発した測定法を用いて、夏季の北極航海にて、観測船「みらい」の表層海水分析室の表層水ポンプから連続的に組み上げられる海水を20分ごとに自動採取し、そのケイ酸塩の連続分析(約1ヶ月間)を行った。海水およびイオン交換水で調整した標準溶液の傾きは一致しており、標準栄養塩海水の分析結果は、認証値と一致した。従来の船上分析装置との値とも一致した(相関係数1.016、決定係数r2=0.9893、サンプル数n=48)。 本研究では、混合コイルの温度が50度の場合、マトリックスが異なる試料の検量線の傾きに差はなく、イオン交換水を用いた「単一標準溶液希釈法」の導入が適用可能であることを示している。高濃度の標準溶液を希釈1-12倍まで自動希釈が可能であることもわかった。 コイル温度を50度と設定した場合、マトリックスの影響を受けないが、このコイルの温度を30度として分析を行った場合では、この検量線の傾きに大きな差が生じることがわかった(海洋化学研究にて報告)。これは、温度を低く設定した際、化学反応速度が遅くなり、さらにイオン強度の高い海水の場合は、その影響が最も顕著であったためと言える。現在、温度の影響を受けない試薬濃度などの最適化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画は、「単一標準希釈法」の開発であり、そのための基礎実験を行うことができた。現在1-12倍までの希釈を精度良く希釈できることがわかった。つまり、ケイ酸塩の濃度が360μMまでなら、「単一標準希釈法」を組み込んだ分析が可能である。しかし、現在のケイ酸塩分析法は、混合コイルの温度設定によって、マトリックスの影響を受けてしまうことが新しくわかったため、今後、試薬最適条件を検討する予定である。
国際栄養塩インターキャリブレーション航海が1年間延期されたこともあり、本年度は、本研究では予定していなかった、北極航海の表層海水のケイ酸塩の連続分析を行った。この際、測定装置に適したオンライン濾過法を導入し、連続650時間、2470試料の分析ができた。また、既存の測定法のデータとの比較もでき、本分析法の分析精度と正確さを示すことができた。
本年度は、ケイ酸分析の化学反応速度に関する詳細な研究が必要であることがわかり、更なる研究が必要である。一方、野外調査によって、分析法の簡便性及び安定性が確認できたため、本年度の研究は、概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も、引き続き、ケイ酸分析法の改良、特に、温度影響を受けにくい試薬の最適条件を検討する。具体的には、Ruzicka et al(2019)でリン酸分析法の最適化をおこなったように、ケイ酸分析に最適な、モリブデン濃度と硫酸濃度の最適条件を調べる。
2022年度に予定されていた国際栄養塩インターキャリブレーション航海が1年延期されたため、本年度は、JAMSTEC主催の北極航海において、更なる簡便なオンライン濾過法に最適なフィルターの検討、また採取予定の間隙水をオンライン希釈して分析する手法を検討する。また、2023年度の国際強度研究航海に向けて、今までに確立された手法のマニュアル化を進め、プログラミングの最適化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
オーストラリア連邦科学産業研究機構(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization、CSIRO)主催の国際栄養塩インターキャリブレーション航海 (https://wp.csiro.au/iniv2022/)が2022年度の5月から6月に計画され、参加する予定でいたが、世界的なコロナの感染拡大防止のため、やむなく1年延期(2023年度5月から6月)された。これを受けて、当初2022年度に予定していた観測用消耗品の購入、人件費などを2023年度へ持ち越す必要が出てきたためである。さらに、2023年度の外国旅費及び人件費についても、この航海の1年間の遅れにより、2023年度へ持ち越し、観測を行う。
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