衛星観測と高解像気候モデルを組み合わせた暴風雨における雹の役割の解明

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 21K03674
• 研究機関: 国立研究開発法人海洋研究開発機構
• 研究代表者: 清木 達也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), 研究員 (60599968)
• 研究期間 (年度): 2021-04-01 – 2024-03-31
• キーワード: 雹 / 暴風雨 / 降水システム / 気候システム / 気候モデル

研究実績の概要

令和3年度はグローバルな雹の分布と暴風雨における役割を解明する為、風速・降水観測データの取得及び全球雲解像モデルへの雹プロセスの導入を実施した。従来の研究では特定地域に偶発的に発生する事例研究に主眼を置いたものが多く、全球の気候学的に雹の動態を調査するのが本研究の目的である。
まずは、豪雨特性を理解する為にGPM-DPR衛星データプロダクト(2014年～2021年)を取得した。衛星観測データは圧縮性の高いHDF5のデータ格納形式であるため、解析可能なバイナリデータに変換を施した。また、大気シミュレーションモデルにはNICAMを利用し、研究代表者が開発したダブルモーメント法雲微物理モデルで予報される氷粒子種に雹を追加した。現段階では雹に特有の湿性・乾性成長を考慮しておらず、過去の観測データに基づいて粒子形状、バルク密度、終端落下速度を雹の粒子モデルパラメータをとして設定した。
本年度はテスト実験として全球14kmの水平解像度で2週間積分を実施した。シミュレーションの実行には、研究代表者が所属する海洋研究開発機構の地球シミュレータを利用した。従来の雹を含まないモデル結果と表を含んだモデル結果を比較したところ、全球平均値には目立った違いは現れなかった。雹粒子は特に強い対流性の降水システムに現れることが知られている為、平均値としての影響が少ない事は期待通りである。豪雨の局所性と散発性から、系統的な豪雨システムの解析にはより多くの積分期間が必要であることが確認された。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

研究代表者が所属している海洋研究開発機構は、令和2年度末に大規模な情報セキュリティインシデントが発生し、その対応の為の外部ネットワークのシャットダウンが令和3年度全体にわたって段階的に実行された。さらに、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う出勤回数の大幅な抑制が、国立研究開発法人の働き方方針として通達された。これらにより、テレワークでは当機構内部の特定計算システムにアクセスする事が不可能な期間が長く、研究環境にアクセス可能な機会が大幅に制限されてしまった。具体的には外部ネットワークからの観測データの取得、機構内でのスーパーコンピュータ上でのモデル開発及びシミュレーションの実施がテレワーク環境下では困難な状況にあった。以上の理由により、少ない研究機会の中で本研究課題を実施する事になった為である。
研究代表者自身の責任の範囲内では研究進捗に対して困難は少なかった。そのため、全体では研究進捗がやや遅れている程度に留まっている。
また、新型コロナウィルスの国内の感染状況を踏まえ、現地開催である日本気象学会秋季大会への参加発表は見送ったために、研究計画書に記した国内の学会発表は実現しなかった。

今後の研究の推進方策

まずは、計画通りに大気シミュレーションの実施期間を1年間まで延長し、様々な季節・地域におけるより多くの豪雨システムを抽出する。また、観測およびシミュレーションのビッグデータから豪雨システムを効率的に抽出するための解析ツールの整備も同時に進める。以上により、令和4年度に計画している「雹と降水量・風速の関係解析」および「全球シミュレーションの実施・検証」を順調に実施できることが期待される。

次年度使用額が生じた理由

本研究で使用するディスクサーバの保守費用が1年単位での契約だった為、当初の3年契約の見積もりから値段が低くなった。この繰り越し金は毎年の保守契約の更新費用として充てられる予定であるため、計画全体としての未使用額は計画から大きく外れるものとはなっていない。