研究課題
世界の海洋底に分布する鉄マンガン鉱床は,多様な距離スケールと時間スケールで,その産状,組成,構造が変化することが特徴である。その多様性の原因を特定することは,古海洋環境解読,金属資源開発,地球規模物質循環の解明などの分野において重要な研究課題である。本科学研究費課題においては,一連の海底現場沈着実験として,海底に放置したガラス板やプラスチック板への重金属の吸着,および同じく合成マンガン酸化物への金属吸着現象を対象とした現場実験を主題とし,天然の海底現場試料の産状記載・詳細分析をおこない,それらを比較しつつ,包括的にその生成のメカニズムを解明することを目的としている。過年度は,海底沈着現象と類似した,陸上温泉や室内実験による鉄マンガン酸化生成現象と溶存金属元素との反応結果をモニターする実験を実施した。今年度は引き続き,陸上の対象に加えて,現場海洋底の表層試料(=現世の沈澱物)を対象として,その距離・時間スケールの沈澱現象の詳細記載を実施した。とくに我が国周辺海域に広く普遍的に分布するマンガンクラスト・団塊試料について,ICP質量分析及びXRFによる化学分析,XRDによる鉱物分析,および走査型電子顕微鏡およびエネルギー分散型スペクトル分析による形状・形態の観察と化学分析を行った。研究対象とした,海底マンガン鉱床は,高知大学,JAMSTEC, JOGMEC,産総研等と共同作業として,広域的および層位学的な組成や構造の変動パターンに関して,主に北西太平洋海山域で採取された地質試料を対象として観察した。その結果は国内でのいくつかの招待講演,地球惑星科学連合大会2023の海底マンガンセッションなどでの発表のほか,英文国際誌において,海外との共同研究を含めて,誌上発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では,現世海洋底における,鉄マンガン酸化物の沈澱現象および伴う重金属元素の濃集プロセスの実態を明らかにすることを目的として,陸上温泉,室内実験,海底現場実験とともに,現世海洋のマンガンクラストや団塊の分析を実施してきた。今年度はコロナ感染が下火となり,現地調査や研究交流の活動度が上がった。特に,学会等での口頭・ポスター発表を活発に行い,多くの関連研究機関との共同作業による多数の試料収集と分析が可能となった。一昨年度に比べると明らかにデータ収集と研究発信数が増加した。海外研究機関との共同研究も成り立ち,その一部は英文論文として誌上発表された。以上のことから,概ね順調に進展したと自己評価する。
本年度(2024)は本課題の最終年度にあたる。昨年度収集し,一部発表した分析結果や地質モデルなどをより一般化して,海洋における酸化物生成と金属元素濃集のプロセス解明に向けて,最終的には,現世海底における海底マンガン鉱床の時間空間的多様性を支配する地球科学的要因解明に向けて,成果発信を行う予定である。その成果を,関連する学術研究機関,大学,資源探査機構などへの貢献につなげてゆく予定である。
前年度に予定していた現地調査(航海を含む)が繰り越されるため,旅費,現地調査機材費などを確保した。室内実験や分析においては,学生・院生等を雇用するための謝金が必要である。また実験に不可欠の消耗品やデータ保管,印刷,研究成果公表の為の学会参加費,英文校閲費,オープンアクセルのページチャージなどを準備している。情報収集のための,消耗品,印刷等,複写費等などが当然必要となる。 以上
カナダQueens大学の地質工学部 Dr. Knaack氏を中心とした同位体化学研究者とともに,太平洋の広域から得た鉄マンガンクラストの酸素同位体分析を行った。
すべて 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
Geochemistry, Geophysics, Geosystems
巻: 24 ページ: -
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Marine Georesources & Geotechnology
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