研究課題/領域番号 |
21K03686
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
澤崎 郁 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 特別研究員 (30707170)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 極値統計解析 / 連続地震波形記録 / 区間最大振幅 / Hi-net / MeSO-net |
研究実績の概要 |
本年度は、長期間にわたる連続地震計記録の区間最大振幅データベースの整備に取り組んだ。具体的には、防災科学技術研究所が管理・運用するMeSO-netの連続地震計記録を元に、2008年から2021年までの1日ごとの最大振幅(区間最大振幅)のデータベースを作成した。また、Sawazaki (2021)による余震予測のための極値統計解析手法に修正を加え、より長期間の定常的な区間最大振幅に適用するためのアルゴリズムを作成した。具体的には、余震時の区間最大振幅に適用する際に推定する大森―宇津公式のp値を、長期的な区間最大振幅に適用する際にはp=0に固定し、時間減衰を仮定しないようなアルゴリズムを作成した。このアルゴリズムを茨城県つくば市に設置されているMeSO-net観測点E.TSRMで観測された13年分の区間最大振幅データに適用した結果、地震動最大振幅の規模別頻度分布を表すm値が2.99と推定された。この値は余震時の区間最大振幅でおおむね2程度の値が得られるのに比べて有意に大きく、相対的に大振幅の発生割合が小さいことが分かった。また、2008年岩手・宮城内陸地震の発生前半年間について、Hi-net地震動記録の区間最大振幅を半日ごとに計算し、同様の解析手法を適用した結果、岩手・宮城内陸地震発生から4日後までの1cm/s以上の揺れの発生確率は、地震発生前と比べて94~230倍に増加したことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
防災科学技術研究所が管理・運用するMeSO-netは首都圏を中心に高密度に展開された強震観測網であり、連続的に揺れのデータを収集していることから、本研究課題の遂行に適したデータセットといえる。本年度は、この連続地震計記録から1日ごとの最大振幅を観測地点ごとに計算し、そのデータベースを構築した。また、定常時の地震活動を扱えるように解析アルゴリズムを修正した。現時点では、つくば市の1観測点について予備解析を行ったのみであるが、今後、長期的な最大振幅の予測を実際の観測と照らし合わせ、その解析事例を増やすことで、長期予測の検証が可能になると考えられる。また、Hi-netについても大地震発生前の通常時の区間最大振幅を用いることで、大地震後に地震発生確率が何倍増加したかの情報を客観的に示すことが可能になった。以上を総合的に考慮し、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Hi-net記録についても1日ごとの最大振幅のデータベースを構築するほか、大振幅による機器の飽和時にはHi-netに併設されているKiK-netの記録も利用し、両者を融合した区間最大振幅データベースを作成したい。また、F-netの強震記録についても必要に応じて区間最大振幅のデータベースを構築したい。MeSO-netもHi-netも地震計が地中に置かれているため、地表での地震動予測に換算するためには、地盤の増幅の影響を考慮する必要がある。また、最大振幅のみならず計測震度に対する予測も理論上行うことができるが、そのためにはSawazaki et al. (2021)のアルゴリズムにおいて用いられているFrechet分布ではなく、Gunbel分布を用いる必要がある。したがって最大振幅の予測を行う場合とは異なるアルゴリズムの構築が必要と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症により、主に国内外での学会参加のための旅費に充てた分が使用できなかったため。今後感染状況が改善せず旅費に使用できない状況が続く場合、役務発注など別用途への使用も検討したい。
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