令和5年度は,令和3年度に埼玉県の中川低地北部において掘削した2本の堆積物コアから検出した有機質シルト層(泥炭層)とその上下の層準で,高密度な放射性炭素(C-14)年代測定を行った.令和5年度に行ったC-14年代測定は,令和4年度に行ったものの追加である. C-14年代値は,64ミクロンの篩の上に残存した植物遺体のみならず,黒ボク土からの再堆積の評価のために,64ミクロンの篩を透過した微細な炭質物についても測定した. その結果,(1)有機物シルト層ないしその基底面には1.9~1.4 kyrのハイエイタスが存在し,その年代は4 ka前後であること,(2) 当初,黒ボク土の再堆積であると予想した有機物シルト層が,いわゆる黒泥を含む現地性の湿地堆積物であること,が解明された.なお,(2)については,利根川低地において検出された有機物シルト層についても同様の検討を行った結果,微細な炭質物が3.6~2.8 kaの年代値を示し,黒ボク土が再堆積した古い年代値を示さないことが分かった. 関東平野中央部では,4 kaに縄文海進が終焉し,海水準の低下が開始したことが解明されている.有機質シルト層は,このような海水準低下に伴い,海成泥層が離水して形成された侵食面を被覆した湿地堆積物と考えられる.有機質シルト層の形成時期,中川低地北部では,利根川がバイパスされたために,その堆積速度は極めて遅かった.この時期,利根川の堆積中心は中川低地南部にあり,そこではデルタの前進が活発化したと解釈される. 本研究は,沖積層の形成機構の解明には,下流から上流までを捉えた包括的な検討が重要であることを示す.
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