研究課題
九州火山の放射非平衡の結果は,伊豆弧の火成岩と異なり,北部の由布鶴見から開聞岳まで,(230Th/238U)の放射能比は1から1より大きくなる物が多い.阿蘇火山の試料の(230Th/238U)放射非平衡の原因について考察した.放射非平衡は試料の二酸化ケイ素(SiO2)濃度により変化することが観察された.SiO2濃度が50%程度の最も低い試料では,(230Th/238U)は1より低い物が認められ,初生マグマは流体の影響を受けている可能性を示唆している.4千年より若い試料では,(238U/232Th)放射能比が,SiO2濃度が49%から51%の区間で低下し,それ以上の区間では,ほぼ一定になることが明らかになった.また(230Th/232Th)の放射能比が,それぞれの区間で,増加,減少する.二つの変化が合わさって(230Th/238U)>1の放射非平衡を生み出していることが明らかになった.玄武岩マグマから晶出する鉱物では,(238U/232Th)放射能比を大きく変化させる鉱物は稀なため,地殻の同化作用の影響を受けていると推察している.本年度は,地殻物質の候補と考えられる阿蘇火山の基盤岩や熊本金峰火山で採取された捕獲岩の微量元素濃度を,レーザーアブレーションICP分析により求めた.このデータを用いて,マグマ溜まりの化学進化のシミュレーションソフトウェアを用いて,地殻の同化作用により,観測された濃度比の変化が再現できるかを検討した.阿蘇火山の基盤岩を地殻物質として用い,地殻同化+結晶分化(AFC)を起こすと,観測された(238U/232Th)放射能比の変化が比較的よく再現できることが分かった.他の元素濃度比なども,シミュレーションで比較的良く再現できた.阿蘇の初生マグマのAFC作用で,観測される(230Th/238U)の放射非平衡が説明できる可能性が高いため,更に解析を続けている.
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地質学雑誌
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