研究課題/領域番号 |
21K03697
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小屋口 剛博 東京大学, 地震研究所, 教授 (80178384)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 火山噴火 / 推移予測 / データ同化 / 逆解析理論 / 数値モデル |
研究実績の概要 |
火山噴火の時間発展は複雑かつ多様であり,推移予測が難しい.火山学においては,この難題に対して,野外観測で火山現象をモニタリングすることによって予測精度の向上を図ってきた.その結果,地殻変動や火山噴煙の連続観測によって,噴火中のマグマ溜りの圧力やマグマ噴出率について時系列データを得ることができるようになってきた.一方で,火山噴火を支配する物理過程についても,近年,理論モデルの研究が進んできた.このような学術的背景の中,物理モデルと観測データに基づく「データ同化」による噴火推移予測の手法開発が必要となってきた.本研究では,データ同化による噴火推移予測の基礎理論の構築と数値コードの開発を行う. 2021年度には,当初の計画通り,火道と弾性変形するマグマ溜りで構成されるモデルを定式化し,地質条件・マグマの岩石学的性質を与えるとマグマ噴出率とマグマ溜りの圧力の時間発展が出力される順問題モデル(以下「マグマ供給・噴出系モデル」と呼ぶ)を構築した.このモデルは,実際に観測される多様な噴火推移の特徴を再現するとともに,噴火推移を支配する物理過程の影響を数理的に明確に表現するものであり,当初計画において設定した条件を満たすものであることが確認された.また,不連続な遷移過程を含む非線形逆問題の一般理論を確立した上で,それを本研究課題で構築したマグマ供給・噴出系モデルに適用した. その結果,噴火時のマグマ噴出率および火山周辺の地殻変動データからマグマ供給・噴出系モデルの主要パラメータ(粘性抵抗,マグマの含水量,火道からの脱ガス効率)を推定する逆問題の数理構造が解明され,データ同化による噴火推移予測手法の理論的枠組みを確立することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の項目で記された研究成果の知見(マグマ供給・噴出系モデルの定式化および逆問題の数理構造の解明)は,当初予想を上回るものであった.一方,コロナ禍の影響で2021年度に予定していた国内外の学会に出席することができず,本研究の成果発表や関連研究者との情報交換を行うことができなかった.さらに,2021年度の研究成果については,予想以上に多くの学術的内容を持つことが判明し,複数の論文に分けて成果を報告する必要が生じた.現在,国内外の学会に出席できない状況下で,関連研究者とオンラインを用いて個別に学術的議論を進めているが,必ずしも効率的に情報交換ができず,論文執筆に時間がかかっている.以上のプラス面とマイナス面を総合的に勘案し,進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
噴火推移予測の困難は,火山噴火現象の観測精度が限られることや物理モデルのパラメータ(地質条件やマグマの性質に関するパラメータ)が多いことに加えて,順問題モデルが著しい非線形性を持つことに起因している.そこで,本研究課題では,期間内の具体的な目標として,非線形力学系モデルのパラメータ推定に関する一般理論を構築するとともに,多数のパラメータを含む非線形モデルに有効なマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いて,将来のマグマ噴出率の確率分布を出力する数値コードを実装することを目指している. 2021年度には,当初の計画通り,マグマ供給・噴出系モデルを定式化し,噴火時のマグマ噴出率と地殻変動の時系列データからマグマ供給・噴出系モデルのパラメータを推定する逆問題の数理構造を解明することができた.今後の研究実施計画については,2021年度の研究成果の論文化作業が倍増したこと以外に変更すべき事項はない.すなわち,2022年度には,MCMC法を用いたモデルパラメータ推定コード開発に着手する.2023年度末を目標として,モデルパラメータ推定コードを作成し,2024年度に,上記コードを用いた逆解析を実践する.最終年度である2025年度に,モデルパラメータ事後確率分布をマグマ供給・噴出系モデルに代入して将来のマグマ噴出率の推移を確率分布として表す数値コードの開発を完成させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度においては,コロナ禍の影響によって,国内外の学会出席や関連研究者との研究打ち合わせを見合わせることとなった.一方,同年度においては,非線形逆問題の一般理論を確立した上でそれをマグマ供給・噴出系モデルに適用するという,本研究課題の根幹に関わる複数の成果が得られた.これらの成果について,複数の論文に分けて公表するためには,2022年度以降に当初計画を大きく上回る論文掲載料およびオープンアクセスの費用を支出することになると予想される.以上の理由で,2021年度に計画していた学会出席などの経費を大幅に節約し,2022年度以降の論文掲載料およびオープンアクセスの費用に流用することとした.
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