研究実績の概要 |
地球内核は固体鉄合金で構成されているが、その化学組成は未だに確定していない。内核の温度と圧力は非常に高く、高温高圧実験技術が進歩している現在でも、直接この温度圧力条件で固体鉄合金の密度と音速を測定するのは極めて難しい。そこで、信頼性の高い第一原理分子動力学法を用いて、軽元素候補と鉄との固体合金について密度と音速を計算し、地震波測定の結果と比較するのが、有力な方法である。軽元素候補としてはケイ素、硫黄、酸素、炭素、水素の5種類がある。そのうち固体鉄に不純物として固溶しにくい酸素と、外核の存在量が少なく、固体鉄と液体鉄間の分配の性質から内核の存在量も少ないと考えられる炭素を除いた、水素、ケイ素、硫黄との固体鉄合金について、第一原理計算による分子動力学シミュレーションを行った。 固体鉄合金のうち、鉄原子はhcp(六方最密構造)を取ると仮定する。ここに水素を鉄格子間に入れる侵入型で、珪素と硫黄を鉄原子と入れ替える置換型で配置した。その組成は、Fe64(純鉄), Fe64H4, Fe64H8,Fe64H12, Fe60Si4, Fe60S4, Fe64Si4H4, Fe64S4H4を用いた。第一原理分子動力学シミュレーションは約10ピコ秒行い、その密度と全エネルギーを時間平均して求めた。 同様の計算による先行研究(Li et al., EPSL 493, 118; Wang et al., EPSL 568, 117014)では密度の水素濃度依存性が非常に小さかったが、本研究ではそれが非常に大きいことが明らかになった。これにより、水素が存在することにより、先行研究で予想されたものより少ない量のケイ素、硫黄と水素を組み合わせることで内核の密度欠損を説明できることが期待される。今後は、本研究をさらに発展させて音速を計算し、実際の地震波測定の結果と比較していきたい。
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