研究課題
関東対曲構造の核心部である伊豆衝突帯及び関東山地を調査フィールドとして、17 Ma以降の関東対曲構造東翼側(糸魚川-静岡構造線の東側)の回転運動史を詳細に明らかにするために、本研究は関東対曲構造東翼側に分布する約15 Ma以降の火成岩類の古地磁気方位を決定することを計画している。本年度は長野県南佐久地域の火成岩類を対象に地質調査、放射年代測定、古地磁気調査などを実施した。南佐久地域の地質調査(先行研究の文献調査を含む)の結果、調査地域に分布する火成岩類は「石英斑岩~流紋岩岩脈」と「花崗岩質深成岩体」に大別できることが判明した。石英斑岩~流紋岩岩脈は長径約10 kmの楕円形に分布する環状岩脈を含み、これはコールドロン形成に関連して深部縦ずれ断層に沿って生じた岩体である可能性が考えられる。調査地域北東部の石英斑岩~流紋岩岩脈は岩脈群を形成しており(八千穂岩脈群)、岩石は強い熱水変質を受けている。一方、花崗岩質深成岩体はいくつかの独立したストックからなり、代表的な岩体は茂来山岩体である。これら2種の火成岩類の前後関係を地質調査によって決めることはできなかった。ジルコンU-Pb年代測定の結果、4地点から13.5~13.2 Maの年代値が得られた。これら2種の火成岩類を合計28地点で採取し、段階消磁実験を含む古地磁気測定を行った。その結果、13地点の地点平均残留磁化方位が決定された。岩石磁気実験結果から、磁化は主に磁鉄鉱によって担われている熱残留磁化と考えられるが、一部の地点では磁硫鉄鉱の残留磁化(化学残留磁化と推定)も認識された。これらの方位は全体的に北から40度程度の東偏を示すことから、火成岩が13.5 Ma頃に形成されてから現在までの間にこの地域の地殻は約40度の時計回り回転を受けたことが強く示唆される。
2: おおむね順調に進展している
実施計画書に記載した長野県南佐久地域の火成岩類の地質調査、年代測定、古地磁気測定を予定通り実施できた。調査結果から、約13.5 Ma以降にこの地域の地殻が受けた回転運動を明らかにすることができた。また、地質調査と年代測定の結果から、この地域で13.5 Ma頃にコールドロン形成を伴う火成活動が起こっていたことが判明した。令和3年度は主に甲府花崗岩類及び秩父石英閃緑岩の地質調査と試料採取を行う予定であったが、令和4年度に実施予定だった南佐久地域の火成岩類の調査を先に行うのが適当であることが予察調査によって分かった。そのため、研究計画書の予定から一部変更し、令和3年度は南佐久地域の火成岩類に焦点を当てた。いくつかの成果を学会で発表した(日本地球惑星科学連合大会、日本地質学会学術大会など)。また、本課題に関連するテーマとして実施した本州中部及び東北地方に分布する中新世地質体の研究を論文として発表した。これらの達成度を総合すると、現時点ではおおむね順調に進展していると判断できる。
研究はおおむね順調に進展していると判断できるため、令和4年度も研究計画に沿って地質調査、年代測定、古地磁気測定などを進める予定である。令和4年度は甲府花崗岩類及び秩父石英閃緑岩の調査を中心に進め、これらの古地磁気方位を高精度で明らかにしたいと考えている。いずれの地域でも初めに地質調査を行い、岩相分布と地質構造などを明らかにする。その後、測定用の岩石サンプリングを行う。岩石磁気実験も行い、古地磁気を記録する強磁性鉱物の種類や磁気的性質も明らかにする予定である。共同研究者の協力を得て、ジルコンのU-Pb年代測定も行う予定である。研究成果の公表作業(学会発表と論文発表)も引き続き積極的に進める。
令和3年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により調査出張及び学会出張が制限されたため、予定していた出張旅費の支出が大幅に少なかった。令和4年度以降には多くの出張機会があると予想され、そのための旅費・人件費・謝金等を確保したいという考えもあった。使用計画としては、令和4年度の出張旅費及び現地調査に関連した人件費・謝金等、学会参加費などである。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件)
愛知教育大学研究報告,自然科学編
巻: 71 ページ: 59-66
Island Arc
巻: 30 ページ: e12404
10.1111/iar.12404
Journal of the Geological Society of Japan
巻: 127 ページ: 403-413
10.5575/geosoc.2020.0046
巻: 127 ページ: 415-429
10.5575/geosoc.2021.0002