地球内部の深部流体は液体-岩石間の化学反応を通じて、多様な含水鉱物や変成岩、火成岩を産出するばかりでなく、岩石の強度低下をもたらし、火山噴火や地震発生のメカニズムに深く関係すると考えられている。そのため、深部流体の挙動を直接的および連続的に観測できる手法の開発が期待されている。なかでもヘリウム同位体比は、深部流体の挙動を直接的に提示する数少ないものである。 深部流体に起因する火山ガスや地下水などのヘリウム同位体比の測定は、実験室の超高真空精製ラインと同位体質量分析計を組み合わせた装置を用いて行っているが、地下水試料はもちろんのこと、火山ガス中に含まれている水分が真空ラインに混入し、真空ライン中の水素分圧が上昇する。その結果、分子量3の水素分子イオンが質量数3のヘリウムに影響を与え、ヘリウム同位体比の分析精度や質量数4のヘリウムに分子量3の水素分子イオンのピークの一部が重なり、シグナル/ノイズ比が低下することが数多く報告されている。そこで水素吸蔵合金を用いて、真空中に残留している水素分圧を簡易かつ迅速に低下させる手法の開発を試みた。 研究で用いた水素吸蔵合金は、ジルコニウム-バナジウム-鉄の合金、ランタン-ニッケル-アルミニウムの合金、チタンシートの3種類である。その結果、ジルコニウム-バナジウム-鉄の合金では150℃以上に加熱後に冷却すると十分水素を吸着すること、ランタン-ニッケル-アルミニウムの合金では水素を吸着するものの、冷却温度を室温以下にする必要があること、チタンシートでは窒素分圧を下げるのには役立っているが、水素分圧を下げることはできないことがわかった。このことから水素吸蔵合金はそれぞれ吸着特性が異なり、それぞれの合金の組み合わせることで質量分析装置内に残留している水素分圧を比較的容易に減少させることができることを明らかにした。
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