研究実績の概要 |
本研究では、独自開発した第一原理熱力学積分分子動力学法(AI-TI-MD法, Taniuchi and Tsuchiya, 2018)を用いて、地球深部の高温高圧条件下での液体鉄-熔融ケイ酸塩間における硫黄の分配特性を解明する。その際、硫黄の分配係数に対する温度・圧力・酸素雰囲気の効果について系統的に調べ、統一的な理解を行う。また、熱力学積分の計算精度の向上と効率化についても取り組む。昨年度、硫黄は圧力によらず強親鉄的なふるまいを示すが、酸化的な条件においては親鉄性が減少すること、この効果が高圧ほど顕著となることを初めて見出し、既存の実験結果にみられる不一致の原因が酸化還元条件の相違にある可能性を指摘した。また、熔融ケイ酸塩と液体鉄合金における硫黄原子周りの局所原子構造や電子状態を解析し、微視的レベルから硫黄の強親鉄性の起源に関する解析を行った結果、硫黄は熔融ケイ酸塩中でも鉄原子に近接して存在しており、主に鉄3d電子と硫黄3p電子の結合的相互作用により鉄と強く結びついていることを明らかにした。 本年度は、蓄積されてきた計算データを統合し、得られた硫黄の分配係数を温度・圧力・酸化還元度の関数としてモデル化を行った。そして作成した硫黄分配モデルを用いて、微惑星集積による原始地球の成長に伴う核とマントルの硫黄濃度進化の推定を行った。その結果、100万気圧を超える核の圧力条件において、核が酸化的である場合は硫黄の親鉄性が大きく減少するものの、他の軽元素に比べれば十分に親鉄的である可能性が高く、そのため地球集積時において硫黄の大規模な散逸が生じない限りは、必然的に核は多量の硫黄を含むべきであるという結論を得た。この主張をより確かなものにするには、核が酸素だけでなく珪素や炭素を主要軽元素として含む場合における硫黄分配係数についても計算する必要があり、本年度それらについても計算を開始した。
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