本研究は、強磁性鉱物の懸濁液(磁性流体)を堆積岩試料に含浸させて、その磁化率異方性測定とX線CTスキャンによって得られたデータを解析し、地球と生命の共進化過程と古環境変遷の解明に必要な情報の質・量を飛躍的に向上させることを目的とした。最終年度である2023年度においては、研究対象となる地層の変形モデル再検討及び、磁化率異方性測定とX線マイクロフォーカスCTスキャンデータの画像処理を完了させることが、主要な作業内容となっていた。特に前者に関して、大規模な活断層末端に位置する別府湾で実施された超高精度三次元人工地震探査のデータ解析を行い、地下構造を詳細に解明すると共に数百万年間に亘る古環境変遷の復元に成功した(堆積盆を埋積する地層は気候変動に伴って海成・非海成の部分が繰り返され、地質構造は地震探査における非常に鮮明な反射面である海成粘土層に記録される)。その成果は既にオープンアクセスの電子書籍として広く学界・社会に発信されている。併せて、本州の代表的な新期構造である大阪堆積盆で、第四系・大阪層群のリアルタイム変形を評価するため、リモートセンシング技術を導入したスタディを継続的に実施した。合成開口レーダー(SAR)を搭載した人工衛星データは、その差分干渉解析に基づいて、地表変位をミリメートル単位で評価できる。本来、干渉SARで評価されるのは衛星「視線」方向の一次元的な動きであるが、その北行・南行軌道のデータを組み合わせることで、鉛直・水平方向の変位トレンドを分離することが可能になる。この手法で、三次元的地形変位分布を明らかにし、変動の全貌解明を試みた。特筆される成果は、リモートセンシングによって確認された変動と阪神淡路大震災など顕著な自然災害との明瞭な相関が確認されたことである。以上のような構造運動と磁性流体含浸試料のミクロ分析の総合評価が、本研究を通じての主たる成果である。
|