研究課題/領域番号 |
21K03706
|
研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
山下 太 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波防災研究部門, 主任研究員 (90374165)
|
研究分担者 |
溝口 一生 一般財団法人電力中央研究所, 地球工学研究所, 主任研究員 (50435583)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 岩石摩擦 / ガウジ / スケール依存 / 地震 / 断層 |
研究実績の概要 |
岩石摩擦特性の断層スケール依存性を調査する一環として,通常に比べ大きなすべり速度域での速度-状態依存摩擦則(以下RSF則)パラメタの推定を試みた.対象は防災科研が所有する大型岩石摩擦試験機(断層面積:1.5 m長×0.1 m幅)で断層面に模擬ガウジ(変はんれい岩の粉末粒子,平均粒径12 μm,最大粒径75 μm)を均質に分布させ一定速度で剪断載荷した実験である.載荷速度は5, 10, 15, 30 mm/sで,垂直応力は1.3もしくは2.7 MPaである.岩石同士を直接接触させてこれらの条件で実験をおこなうと非常に大きなスティックスリップが発生するが,ガウジを挟むと数10 mm安定すべりした後,剪断荷重が小さく対称に振動する.これは載荷システムの剛性と摩擦面の剛性の比が1に近い時に発生するスロースティックスリップであると考えられる.観測された振動の振幅は載荷速度に対して正の相関を示す一方,垂直応力に対しては負の相関を示している.そこでこれらの依存性を利用し,数値計算をおこなって実験結果を再現する摩擦パラメタの組み合わせを探索することとした.1自由度のバネ-スライダー系で断層面の摩擦すべりがRSF則(Slip law)に従うと仮定し,a及びbを固定してDcを変化させると,Dcが振動の振幅に対し負の相関を示すことが明らかとなった.そこで,a及びbを速度ステップ実験から推定された0.0042, 0.0050にそれぞれ固定して7つの異なる条件での実験結果を再現する共通のDcを探索したところ,6 μmと推定された.一方,実験開始後の安定すべりから徐々に荷重振動の振幅が増加する過程を再現するには,Dcが23.9 μmから6 μmまですべりに伴って減少する必要があることが分かった.これは剪断によりガウジ層が圧縮され層厚が小さくなる過程を示していると考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで調べられたことのない,メートルスケール断層における比較的高速なすべり速度域でのRSF則摩擦パラメタ推定に成功した.しかしながら,本研究の最終的な目的である,岩石摩擦特性が断層スケールに依存するメカニズムの解明には至っていない.また,センチメートルスケールにおいて高速かつ大変位での摩擦特性を調べるためには回転せん断摩擦試験機を用いたガウジ摩擦実験を実施する必要があるが,そのためには現行の試験機に生じている回転軸と中心軸のわずかなズレを修正しなければ模擬ガウジが漏れ出して適切なデータが取得できない.令和5年度は当該試験機を使用して研究を行っている研究者が他にもいたため,修正のためのメンテナンスを実施する時間が確保できず,予定していたガウジ実験を実施できなかった.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,各実験で得られたデータの解析や摩擦パラメタ推定,サンプルの微細変形構造観察は問題なくできているので,それぞれから判明したことを組み合わせ,RSF則摩擦パラメタDcがスケール依存するメカニズムを明らかにしていく.特に,摩擦すべり中に断層面上で発生・発達する応力不均質が重要な意味を持つと考えられる上,そのような不均質の発達は自然断層の摩擦すべりでも発現しうること予想されるため,局所的な力学データに焦点をあててモデルの構築を目指す.また,センチメートルスケールの断層では大きな変位を加えてもそのような応力不均質が発達しづらいことを確認するため,回転せん断摩擦試験機を用いたガウジ摩擦実験を実施する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
回転せん断摩擦試験機を用いたガウジ摩擦実験は,大変位であってもセンチメートルスケールでは応力不均質が発生しづらいということを確認する上で重要であり,令和5年度中に実施する予定であったが,年度途中で実施できないことが判明したため,令和6年度での実施に向け,岩石試料やセンサー,治具の購入費用,及び,実験後に回収するサンプル内部の微細変形構造を観察するための薄片試料製作費用を繰り越すこととした.
|